宵節句
昔々、ある山奥の村でな、五月の節 句の前の日だけど。 その日は、ええ天気でな、村の人達ぁ 「明日は節句だがら、今日は頑張って 田植えでがして、明日ぁゆっくり休むべ ぇ」 と、言って、おどがら、あばがら若い人 達ぁ、田んぼさ出て行って、年寄りとワ ラシだぁ ばがり村さ残してしまったけど 。 昼間も過ぎて四時頃になったば、西の 方の空が真っ暗になってきたけど。 あら雨など降ってこえば、よでいっこで げねぇ、みんな頑張ろうって言って田植 えしたけど。 したば、夕方になって、黒えぇ雲ぁ村 の上まで広まってきて、遠くの方で雷ぁ 鳴り始めだけど。ポツリポツリ雨っこ落 ちて来たけど。 そしたば、村一番の年寄り爺様、 「これこれワラシだ、早ぐ家さ帰れ、山 がらオニコくるがも しれねぇぞ」 と、爺様村中さ、触れ回したけど。 その声を聞いで、家さ帰るもの、神社 の回りウロウロするもの、そのうちイナ ヅマ光って、雷鳴って、大雨風になって きたけど。 山のほうから赤鬼、青鬼達が来て、家 の軒下、床下さ隠れでえだワラシだ見 つけて山さ連れでいってしまたけど。 雨もやんで夜暗くなってから、ワラシだ 三人ばかり村さ帰ってきたけど。村では ワラシだオニにさらわれだどて大騒ぎし てだけど。 「あら、おめぇだも オニにさらわれだ ど思ってだば、どごさ かぐれでだけてよ」 と、村の人達はびっくりしてワラシださ 聞いだけど。 ワラシだ暗くてよく分がらねぇけ。あし た明がりぐなってがら行ってみるべって 言って、みんな家さ帰って行ったけど。 次の日、ワラシだと村の人達ぁ、ワラ シだ隠れだどごさ行ってみだば、神社 の堀のふじさ生えでだヨモギと、ヒョンシ コの中さ隠れだ あどぁ あったた け ど。 村の人達ぁ、オニだぁヨモギどヒョンシ コしぎでねぇんだなぁ、と思ったけど。 次の年の五月四日の夕方、家のへぇ り口や 回りの窓さ、ヨモギとヒョンシコ さげで 早めに家の中さ隠れだど。 だが、その晩もオニコぁ 山がら出て 来て 家々回って見だそうだのも ワラ シだ一人も連れで行かれなかったそう だ。 それから、ずーと五月の四日の夕方 になると、どこの家も軒下さ、ヨモギとヒ ョンシコさすようになったど。 とっぴんぱらりのぷー |
昔々、ある山奥の村での、五月の節 句の前の日のことです。 その日はいい天気で、村の人達は 「明日は節句だから、今日頑張って田 植えを終わらせて、明日はゆっくり休み ましょう」 と言って、お父さんやお母さん若い人 達は、田んぼに出かけていって、老人と 子どもたちばかりを村に残してしまいま した。 お昼も過ぎて、四時頃になったら、西 の方の空が真っ暗になってきました。 「あら、雨など降ってくれば、予定どお りにいかない。 みんな頑張ろう」といっ て田植えをしていました。 そうしたら、夕方になって、黒い雲が 村の上まで広がってきて、遠くのほうで 雷が鳴り始めて、ポツリポツリ雨が落ち てきました。 そうしたら、村で一番年寄りのお爺さ んが 「これこれ子どもたち、早く家に帰りな さい、山から鬼が来るかもしれないから 」と村中にふれました。 その声を聞いて、家に帰る人、神社の まわりをウロウロする人、そのうち稲妻 が光って、雷が鳴って大雨風になってき ました。 山のほうから赤鬼青鬼達がやってき て、家の軒下や床下に隠れていた子ど もたちを見つけて、山に連れて行ってし まいました。 雨もやんで、夜暗くなってから、子ども たちが三人ほど村に帰ってきました。村 では子どもたちが鬼にさらわれてしまっ たと大騒ぎしているところでした。 「おまえたちも鬼にさらわれたと思って いたけど、いったいどこに隠れていたん だい」 と、村の人たちは驚いて子どもたちに 聞きました。 子どもたちは暗くてよくわからないの で、明日明るくなってから行ってみようと 言ってみんな家に帰っていきました。 次の日、子どもたちと村の人達が、子 どもたちが隠れていた所に行ってみた ら、神社のお堀の縁に生えたヨモギとシ ョウブの中に隠れた跡がありました。 村の人たちは、鬼はヨモギとショウブ が嫌いなのだと思いました。 次の年の五月四日の夕方、家の玄関 や窓に、ヨモギとショウブをさげて、早め に家の中に隠れました。 その晩も鬼は山から出て来て、家々 を回ってみていたようですが、子どもは 一人も連れて行かれなかったそうです。 それから、ずーと五月四日の夕方に は、どの家も軒下に、ヨモギとショウブを さすようになったそうです。 とっぴんぱらりのぷー |
藤原晴子さん
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