ぶっかけ椀
昔あるところの長者殿のえ(家)さ、 三人の息子がえだんだど。太郎と次郎 と三郎といだけど。 ある時、長者が息子だどご呼んで、 「オメだ、三年のうち働いて一番金をも うげで来たおのさ、あど継がせる、なん とだ」 て言ったど。 三人は、それぞれに働きに出たけど。 太郎はある山奥の百姓のえ(家)さ行 ったけど。ほしたば、そこの親がだが、 犬の皮のケラコを渡して、 「これが切れるまで はだらいでけろ」 ていったけど。 なんぼ働いでも、犬の皮のケラコは切 れねぇし、家に帰る日が近づいて来たし 、困ってしまったけど。石の上さねまっ て、太郎は考えで空を見でだけど。 そしたば、木の上でカラスが 「岩すれ、太郎、太郎、岩すれ!」 て、鳴いだけど。 ちょいと後ろ見たば、すべりあんべぁえ ぇ岩っこあったけど。ケラコをしいて、岩 の上さあがってはすべり、あがってはす べりして、半日すべったば、ケラコぁ切 れだけど。 太郎は親方にいって 「親方、ケラコ切れだし、三年えだし、ひま けでけろ」 て言って、 親方、何がけるがど思って、まじでだば 「何もけるものねふて、おら家の たがら おの ける」 て言って持って来たおの、大っきたブッ カケ椀だけど。 んだども、しかだにゃぐ貰って戻ったけど。 あんまりごしゃげで、親方のえさ向げで 、バェーンとぶっとばしたけど。 太郎が歩いでったば、その椀コァ ゴロ ゴロど太郎をぼっかけで来て 「太郎、オレどご 連れでえご、連れでえ ったって損させねぇ!」 て言うなで、なんじぉ しかだねぇぐ、拾っ てフトゴロさ しぇで家さ帰ったけど。 そしてな、えさ 帰ったば、え では 次 郎と三郎ど、いっぺぁ働いで来て、祝い こど してだけど。ほして、次郎の かが ど わらし ど、三郎の かが ど わらし ど お膳こさ座って ごっつぉ くてだけど。 そのじぎ、太郎の かが ど わらし は みんじゃのしまこで、にぎりまま くてだけ ど。 そごさ、太郎が入ったば、 「おお 難儀したべ、まず、おらどて、まま こぉ」 と言ったけど。 ほして、太郎が まま くてだば、そごさ オジジが来て、 「太郎なんだ、んが来てだながぁ、なに 商売してるな」 と、言ったけど。 太郎が困ってだば、フトゴロのわんこが、 「ぬすびど してだなだ、って言え!」 って言ったけど。 それで太郎は、 「ぬす人してえだ」 と、言ったけど。したば、 「ほう、ぬす人?んだば、ばげな、おら えさ、馬盗みにこえ。へば、その馬ける !」 て、言ったけど。 ひとねむりしてえだば、わんこぁ、 「太郎、えご、太郎」と言ったけど。 それで、出がげで行ってみだば、川の あるえで、橋をはずしてえだけど。 それで、わんこぁ、 「おれどご、川の向こうさ投げろ!」 て言ったけど。 この時だど思って、ぶっかけ椀こボエー ンと投げだば、わんこぁ、ヤッサ、ヤッ サと橋かげだけど。ほして 「太郎、来え」って言ったなで、太郎はわ だって行ったけど。 行ってみだば、塀さ、カギかがってえ で、入って行がれねけど。 そこでまだ、わんこぁ、 「おれどご、塀の中さ、べぁべぁんと投げ ろ」 って言ったけど。言うごど聞いて投げだ けど。したば、 「ギギーギギー!」と戸が開いだなで、 中さ入って行ったど。 そして まやさ 行って見だば、 馬の上 さ載って、二人して 両わぎさ えで手綱し めえで 寝でだけど。 そしたば、わんこぁ 「太郎、小屋さ えって、米三俵持ってこ え」 って言ったけど。 「もう二俵、持ってこえ」 って、まだ言ったけど。 そして、馬さ乗ってだ人を、三俵積んだ上さ縄で つなえで、手綱しまがへだけど。 次に みんじゃ の 入り口の かまど あ るどごさ えったば、火吹き竹持って寝で だ人ぁ えだけど。 そのとき、わんこぁ 「尺八ど、火吹き竹、取り替えで持だせ ろ」 って言うなで、太郎ぁ取り替えだけど。 こんだあ 「とど ど かが なの 寝どごさえって、着 物の袖ど袖どつなげ」 って言ったけど。 「髪ど髪もつなげ、ぎっちりつなげ」 って言ったけど。 つないだら、こんだあ 「オジジー 馬 貰ってえぐぞー」 って言ったど。 そしたば、オジジが 「なえでがー!」 って言って起ぎだば、かがなの髪ひっぱ れで、 「いでてば、とど よ!」 「いでたば、あば よ!」 って言って二人で引っぱり合いしてるう ぢに、髪とげだけど。して、着るおの着 るべどて、とどぁ先に着たば、かがが 「なんだて、人の着るおの 着て!」 って言って、かがが着たば、とどが でで っと裸になって、とどが着れば、かがが ででっと裸になったけど。 そしてるうぢ、袖がとげで、オジジが 「ヨジジ、ヨジジ 火おごせ!」 って言ったば、 「ピーヒョロロ、ピーヒョロロ」 て、尺八吹いだけど。 「尺八でねぇぐ、火おごせ!」 て言ったば、まだ 「ピーヒョロロ、ピーヒョロロ」 って、尺八吹いだけど。 こんだ、まやさ 行って 「馬の番してだが!」 て聞いたば 「ちゃんと、ちゃんと」 って言って 「手綱しめでだが!」 て きいだば 「ちゃんとちゃんと」 て言ったけど。 オジジは 「ついに 太郎にやられだ!」 て言ったけど。 太郎はその馬を元に商売をはじめで 、大もうげして、かがど、わらしどさ楽さ せで、幸せに暮らしたんだど。 とっぴんぱらりのぷー |
昔あるところの長者の家に、太郎と 次郎と三郎という三人の息子たちがい ました。 ある時、長者が息子たちを呼んで 「お前たち、三年間よそで働いて、一番 お金を儲けてきた者にこの家の跡を継 がせようと思うが、どういだろう」 と言いました。 三人はそれぞれに働きに出かけました 。 太郎は、ある山奥の百姓の家に行き ました。そうしたら、そこの親方が、犬の 皮のケラ(背中あて)を渡して、 「これが切れるまで、働いてほしい」 と言いました。 いくら働いても、犬の皮のケラは切れ とっぴんぱらりのぷー |
備前ムツさん
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