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〒019-0803
秋田県雄勝郡東成瀬村椿川字堤31-2
まるごと自然館
TEL:0182-47-2362

東成瀬の昔っ子

うるしめんこ

 昔々、あるどごろさ、爺さまと婆さま、毎日山のカノ畑さ行って土掘って、ソバの種まえでだけど。
 
 ある時、爺さまど婆さま、カノの回りの草取りさ出がげだけど。そしてば、ソバ畑の側まで行ったば、赤子の泣ぐ声が聞げできたけど。
「こんただ山の中で、赤子の声するなぁ、キツネにだまされだべが」
って言いながら、泣ぎ声のするほうさ行った見だば、ソバ畑のしまこさあるうるしの木のまっかさ、めんこえ女の子えで泣いでえだけど。
 爺さまど婆さまど大喜びで、
「えがった、えがった、おらどさ、わらしこえねんだがら、神様さずけでけだんだな」
「うるしの木のまっかがら、生まれだんだがら、うるしめんこどつけろが」

 うるしめんどご、家さ連れで来て、うめえ物買ってきて食わせだり、あげ着物買って来て着せだど。
 うるしめんこ、うるしめんこって育てでるうぢに、どんどん大きぐなって、ええ姉コになって機織りするようになったけど。

「キーキーカタリ、キーカタリ、
  クーダコねぇくても ナーナひろ
 キーキーカタリ、キーカタリ、
  クーダコねぇくても、ナーナひろ  」

と、今日も爺さまど婆さま、山の畑から帰ってきたば、うるしめんこ、機織りやってだ音が聞げでくるけど。

「うるしめんこ、うるしめんこ、今帰った。今日はアマノヒャグ遊びに来ねぇけが。アマノヒャグなば、あんまりだんじゃぐなわらしで、何されるが分がらねぇ。アマノヒャグど遊んだてでげねぇぞ」

 婆さま、そう言って教えでがら三日ばりしたばアマノヒャグ来たけど。
「うるしめんこ、うるしめんこ。おれど遊びにえご」
「外さ遊びに行げば、婆さまにおごられる」
アマノヒャグは、その日帰って、まだ次の日来たけど。
「うるしめんこ、うるしめんこ、おれど長者殿えの柿もぎにえご。ゲダコなばカタカタって音コするべの、ジョリコなば えべ」
「やんかやんか、ゲタコなばカランコカランコって音するし、ジョリコなばペタペタって音するし、婆さまさ聞げれば怒られる」
「んだら、おれぶってぐ」
「アマノヒャグの背中さトゲ出でるがら、やんか」
うるしめんこぁなんぼこどわっても、アマノヒャグ帰って行がねえでな
「うるしめんこ、戸ォびゃっこあげでけろ、うるしめんこさ、わだすものあるがら」

 うるしめんこ機織りやめで、外の戸びゃっこ開げだば、そのすぎ間さ指入れでアマノヒャグぁガエッと戸を開げで、うるしめんこどご脇の下さはさんで、ドン ドンど走って長者えの柿の木の下さおえで、柿の木さワリワリど登って、柿もえでガリッとかじって、ムシャムシャど食って、まだひとつもえでガリッとかじっ て
「目くそ、鼻くそ、トットットゥ」
って、ベロしかげだ柿、うるしめんこめがげで投げでよごしたけど。二つも三つもうるしめんこさ投げでよごすもんだがら、うるしめんこぁ、はだしで泣ぎながらえさ帰ってきたけど。
そしたば、アマノヒャグぁ、うるしめんこどごぼって来て
「うるしめんこ、遊ぼったぁ」
って言って、うるしめんこどご、踏むんだが叩ぐんだがしていじめるけど。

 アマノヒャグまだ、いじめで喜んでだけど。そしているうぢ、うるしめんこぁ死んでしまったけど。婆さまにおごられるど思って、うるしめんこのつらの皮剥いで、自分のつらさくっつげで、うるしめんこさ化げで機織りしてえだけど。

 そごさ、爺さまど婆さまど山の畑がら帰って来たけど。

「ギーギーガダリ、ギーガダリ、
   クーダコあっても ひとひろ 」

「うるしめんこ、身体ぐえでもわりんだが。機織りの音コびゃっこおがしぐねがぁ」
って爺さま言ったど。
婆さまも、変だど思って、えの中さひゃって
「うるしめんこ、身体のあんべぇわりが。わりら、びゃっこ休むんだぁ」
って言ったば、アマノヒャグぁ、婆さまにツラ見られねぇようにコソコソど寝でしまったけど。

 次の朝ま、うるしめんこぁ、ながなが起ぎでこねんだへんと、婆さま
「うるしめんこ、起ぎでママけ」
って起ごしたば、ノソノソど起ぎできて、ツラも洗わねぇで、ママ食どさ来たけど。
「つら洗わねで、ママかれねべ」
って言ったば、ミジャさ行って、鼻の上ばりテロテロど洗ったまねして、ママくうどごだけど。
「つらぞうな、こうして洗うもんだ」
って言って、テノゲでゴシゴシ洗ってけだけど。
したば、つらの皮はげで、醜いアマノヒャグになったんだどよ。

 あんたにめごぇがったうるしめんこどご、殺されたんだおの、爺さまも婆さまも、ごしゃげで、やぢねぇふて、アマノヒャグどご、家の周り引っ張りまわして 歩いでだけど。爺さまど婆さまは泣ぎながら、アマノヒャグどご引っ張り歩ぐうぢ、身体がら血ィだらだら出で、カヤの根ッコまで赤ぐなったけど。
 それで、今でもカヤの根ッコ赤ぐなってるんだど。
  
 
 
  トッピンパラリノプー
   昔々、あるところに、爺様と婆様がいて、毎日山の焼き畑に行って、畑を掘って蕎麦の種を蒔いていました。 

 ある時、焼き畑の周りの草取りに出かけました。そして蕎麦畑の側まで行ったら、赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。
「こんな山の中で赤ん坊の声がするなんて、狐にだまされたのかな」
と言いながら、泣き声のするほうに行ってみると、蕎麦畑の隅にある漆の木の枝分かれしたところに、可愛い女の赤ん坊がいて、泣いていました。
 爺様と婆様は大喜びで、
「よかった、よかった。うちには子どもがいないから、神様が授けてくれたんだね」
「漆の枝分かれしたところから産まれたんだから、うるしめんこと名付けましょう」

 うるしめんこを家に連れて帰って、おいしい物を買ってきて食べさせたり、赤い着物買ってきて着せました。
 うるしめんこ、うるしめんこと可愛がって育てるうちに、どんどん大きくなって、いい娘に育って、機織りをするようになりました。

「キーキーカタリ キーカタリ 
   クーダコ無くても 七尋
 キーキーカタリ キーカタリ 
   クーダコ無くても ナーナヒロ  」 

と、今日も爺様と婆様が、山の畑から帰ってくると、うるしめんこが機織りをしている音が聞こえてきます。

「うるしめんこ、うるしめんこ、ただいま。今日はアマノジャクが遊びに来なかったかい。アマノジャクは、たいそうわがままな子どもだから、何をされるかわからないよ。アマノジャクと遊んではいけないよ」

 婆様がそう言って教えてから、三日ぐらいたったら、アマノジャクがやってきました。
「うるしめんこ、うるしめんこ、おれと遊びに行こう」
「外に遊びに行けば、婆様に叱られる」
アマノジャクは、その日は帰って、まだ次の日来ました。「うるしめんこ、うるしめんこ、おれど長者殿の家の柿茂木に行こう。下駄はカタカタと音がするけど、草履ならいいじゃないか」
「いやだいやだ、下駄はカランコカランコと音がするし、草履はペタペタと音がするから、婆様に聞こえれば叱られる」
「じゃ、おれがおぶっていく」
「アマノヒャグの背中に棘が出てるから、いやだ」
うるしめんこがいくらことわっても、アマノジャクは帰って行きません。
「うるしめんこ、戸を少し開けてくれ、うるしめんこに渡す物があるから」

 うるしめんこは、機織りをやめて、外の戸をほんの少し開けたら、アマノジャクはその隙間に指を入れてました。ガラッと戸を開けて、うるしめんこを脇の下にはさんで、ドンドン走って、長者殿の家まで来ると、柿の木の下に置きました。そして、木に登って、柿をもいでは齧って、ムシャムシャと食べました。
また、一つもいではガリっとかじって
「目くそ、鼻くそ トットットゥ」
と、つばをかけた柿をうるしめんこに投げつけました。二つも三つもぶつけるので、うるしめんこは、裸足で泣きながら家に戻りました。
 すると、アマノジャクは、うるしめんこを追ってきて、
「うるしめんこ、遊ぼうってば」
と言って、うるしめんこを蹴飛ばしたり、叩いたりしていじめました。

 アマノジャクがいじめて喜んでいると、そのうち、うるしめんこは死んでしまいました。婆様に知られたら怒られると思ったアマノジャクは、うるしめんこの顔の皮を剥いで、自分の顔につけて、うるしめんこになりすまして、機織りをしていました。

 そこに、爺様と婆様が、山の畑から帰ってきました。

「ギーギーガダリ、ギーガダリ 
  管があっても  一尋  」

「うるしめんこ、おまえ、身体具合でも悪いのかい。機織りの音が少し変だけど」
と、爺様が言いました。
婆様も、変だと思って、家の中に入って
「うるしめんこ、身体具合が悪いかい。悪いんなら少し休んだほうがいいよ」
と言ったら、アマノジャクは、婆様に顔を見られないようにコソコソと寝てしまいました。

 次の朝、うるしめんこがなかなか起きてこないので、場様が
「うるしめんこ、起きてご飯を食べなさい」
と起こすと、のそのそと起きてきて、顔も洗わないでご飯を食べるところにやってきました。
「顔を洗わないで、ご飯は食べられないよ」
と言うと、台所に行って、鼻の上だけテロテロと洗って、ご飯を食べようとしました。
「顔はこうやって洗うもんだよ」
と言って、手ぬぐいでゴシゴシと洗ってやりました。
すると、顔の皮が剥がれて、醜いアマノジャクになりました。

 あんなに可愛かったうるしめんこを殺されたので、爺様も婆様も、怒ってしまって、うるしめんこが可哀想で、アマノジャクを引きずり回しました。爺様と婆 様が泣きながら、引きずり回しているうちに、アマノジャクは、身体から血が流れ出てカヤの根まで赤くなって、死んでしまいました。
 それで今でもカヤの根は赤くなっているそうです。
   

トッピンパラリノプー

藤原 晴子さん

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