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〒019-0803
秋田県雄勝郡東成瀬村椿川字堤31-2
まるごと自然館
TEL:0182-47-2362

東成瀬の昔っ子

若返りの水

 昔々、ある山の下にな、じさまとばさ
まどえで暮らしてらけど。

 春の雪消えて、半月ぐれ暮らしたば、
なんと山さ桜咲いで、天気のいいじぎな
、じさま
「ああ、今日みでに天気いいじぎ、家の
中にいでぐね。ばさま、おれびゃっこ山
さ行ってみる」
って行ったけど。

 して、アケビコダシ背負って、山さ行っ
たけど。いっつも行く所さ行ってみだば
、ウドおえだらんだが、アイコおえでらん
だが、山菜盛りだっけぞな。
「あっ、こっちもある。こっちにもある」
なんと、じさま、おもしぇくて、採るて、採
るて。そしたば、そのアケビコダシいっ
ぺぇなったけど。
「さあ、晩がたえなった。そろそろ帰らね
ねんだな」
と思ってな、アケビコダシ、ドッコイショと
背負っべどったけど。なんと、おがえっ
ぺ採ったなで重でくて、じさま、ウントコ
ショって立でなぐなったけど。
「ああ、困った。んだのも、これ皆背負っ
て行ぎでし、ばさまさどごなんぼが喜ぶ
んだが、頑張って背負ってぐべ」
と思ってな、まだこう背負い直して、びゃ
っこちからへで、ドッコイショって起きる
べどったば、なんとおがセイ強くて、ゴロ
ンゴロンど、下のサッコさ落ちでってまっ
たけど。

「ああ、こりゃ、サッコさ落ちでしてしまっ
た、なんじしたらえがべ」
って思案したっけどな。
 まず一回降ろして、びゃっこ休むべな
て休んでらば、そごがらチョロチョロど
水コ流れできたけど。
「ああ、んだら、まずこの水コでお、いっ
ぺぇ、ごっつぉなってな。頑張って家さ皆
背負って行くべ」
って、サッコさかぶじで、水ガブガブガブ
ど飲んだけど。
「あ、うめがった、うめがった」
なてな。

 一休みして、まだそのアケビコダシ背
負って、先だ重でがったへんとが、力へ
でウントコショって立つべどったば、そん
まチョコッとが立つえけど。じさま、その
水飲んだなで、若ぐなったなで力コつい
てな、採った山菜、おが重だぐねっけど

 サッコなりにズーッ下りで行って、あま
り暗ぐならねうぢ、ばさまどさ行ったけど


「ばさまばさま、こりゃ、なんと今日はウ
ドもなにも山菜盛りで、こんだにいっぺぇ採ってきたぁ」
ってばさまどご、呼ばったけど。
 したば、出てきたばさまが見だば、わ家のじさまより若げけどな。
「どこがの若げもの来て、おれどご馬鹿
えして、からかってこういう事をいうどご
なんだ」と思って
「おらえのじさまでね。おらえのじさまな
ば、山さ行ってまだ来ね」
って言ったけど。
「んだがら、今、山菜デッタリと採って背
負って来たべた、ばさま」
って、なんぼ「ばさまばさま」って言った
て、ばさま
「おらえのじさまでね、どごがの若げも
の、おれどこ、からがって来たなだ」
って本気にしねけど。
して、おが、
「ばさまばさま、おれだ、こごの家のじん
じだ」
って言うおんだがら、ばさま落ぢ着いで
こんだ、じさま着てった着物だりなんだ
り見だば、やっぱり、わ、こさえでけだ着
物だけど。
 ああ、せば、やっぱり、わえのじさまだ
など思って、山菜いっぺぇ採ってえがっ
たどてじさまどご褒めで、二人で話ッコ
してるうぢ、じさま
「あんまりおが、えっぺぇ採って、ゴロン
とサッコさ転び落ぢでえって、サッコの
水飲んだば、こうなった」
って言ったけど。

 したばそのばさま、隣あだり人だぢの
話ッコ聞いでな、前ピラのサッコさ行げ
ば、若返る水出はるっていうごど、さっと
が聞いてらったごで。じさま、へば、その
若返る水飲んだなだなって、思ったごで


「じさま、こんだに若ぐなったなさ、おれ
ばり、婆んばでらって、でぎね」
ってな、次の朝ま早ぐ起ぎで、じさまま
だ起ぎねうぢ、山さワラワラど行ったけ
ど。

 して、じさまの話聞げば、こごのあだり
だなって思って、前ピラのヒラッコ歩いて
行ったば、じさま、かっ転び落ぢで草コ
倒したどご、見えるけど。
「あぁ、こごのあだりじさま、踏んじらけ
だなだ」
って、そこを下りでったば、サッコあるけ
ど。
 してサッコのほさ、山がらポリポリど出
はってる、水コあるけど。
「ああ、おらえのじさま、これ飲んだなだ
な、じしとでお」
と思って、ばさまも、そさ、かぶじで飲ん
だけど。
 カプカプど、
「ああ、うめごと、うめごど」って飲んだご
で。
「んだのも、こんころばり飲んだって、じ
さまよりもっと若げぐなねばでげね」
って、まだ、かぶぢでガブガブど飲んだ
ごで。

 じさま起ぎだば、ばさま、えねっけど。
「ばさまどごさえったべ。山菜みんな片
付げだべが」
って、家の中ぢゅう見だたて、山菜はチ
ャンと片付げだのも、ばさま何処さも、
えねっけど。
「あらーなんじだべ、おらえのばさま、ど
さえったべ」
どて、探しただって、隣あだりさ聞いだ
たて、誰お知らねけぞな。
「あらー困ってまった」と思ったなど。

 んだのも、じさま、思案しでみで、
「じっしとでお、おらえのばさま、おれ、
あっこの水飲んだって聞がせだなで、ほ
の水飲みに行ったなでねがな、こりゃ」
って思って、晩がたしみゃ、わ転がった
どこの山さ行ったけど。
 したば、なんだが、わ水飲んだそばま
で行ったば
「ホンギャ、ホンギャ」
っていう音するおな、
「あらー、こんただ山の中さ、なんじして
赤んぼえだべ」
って、どしめがして、そのわ水飲んだど
ごさ行ってみたっけど。

 したば、ばさま赤んぼになって
「ホギャ、ホギャ」って泣いでらどごだけ
ど。じさま
「こりゃばさまなんと、若返りの水飲みし
ぎだ、こりゃ」って思って、ばさまどご抱
っこして、家さ連れできて、おしめコとっ
きゃでけで、乳飲ませでけで、ばさま大
きくなるまで面倒みで、仲良ぐ暮らした
っけど。
  
 
 トッピンパラリノプー
   昔々、ある山の麓に爺様と婆様が居
て暮らしていました。
 
  春の雪が消えて半月ほど過ぎたら、
山に桜が咲いて、良い天気の日でした
。爺様が
「ああ、こんな良い天気の日に、家の中
なんかいられない。婆様、私はちょっと
山に行ってみるよ」
と、山に行きました。

 そうして、アケビの蔓で作ったかごを
背負って、いつも山菜採りに行く場所に
行ってみると、ウドが生えていたりアイコ
が生えていたり、山菜が盛りでした。
「あっ、こっちにもある。ここにも」
爺様は嬉しくて、採るわ、採るわ。する
と、アケビコダシがいっぱいになりまし
た。
「さあ、夕方になったな。そろそろ、帰ら
なくちゃ」
と思って、アケビコダシをドッコイショと
背負おうとしましたが、なんともたくさん
採りすぎて重くて、立ち上がることがで
きません。

「ああ、困ったな。けれど、これを皆背
負って行きたいし、婆様もどんなにか喜
ぶだろうし、頑張って背負って行かなく
ちゃ」
と思って、背負い直して、少し力を入れ
て、ドッコイショと起き上がろうとしたら、
勢いがつきすぎて、ゴロンゴロンと、下
の沢に落ちて行ってしまいました。

「あらら、沢に落ちてしまった。どうしよう

と考えました。
 まず一回荷物を降ろして、少し休もう
と思っていたら、そこから水がチョロチョ
ロと流れてきました。
「ああ、それなら、この水でもいっぱい
飲んでからだ。頑張って、家にみんな背
負っていこう」
と、沢にかぶりついてガブガブと水を飲
みました。
「ああ、うまい、うまい」
とね。

 一休みし終わって、もう一度アケビコ
ダシを背負って、さっきは重たかったの
で、力を入れてウンコトショと立とうと思
ったら、すぐにチョコッと立つことができ
ました。爺様は、その水を飲んで若返っ
て、力がついたので、採った山菜があ
んまり重くなくなったのです。
 沢に沿ってずうーっと下っていって、あ
まり暗くならない時間に、婆様の待って
いる家に着きました。

「婆様、婆様、ほら、今日はウドからな
にから山菜が盛りだったから、こんなに
たくさん採ってきたよ」
と言って、婆様を呼びました。
 すると出てきた婆様が見たら、自分の
家の爺様より若い人でした。
「どこかの若い者が、私をバカにして、
からかってこんな事を言うんだろう」
と思って
「うちの爺様じゃないよ。うちの爺様は
山に出かけて、まだ帰ってこないよ」
と言いました。
「だから、今、山菜をたくさん採って背負
ってきてるじゃないか、婆様」
と言って、いくら婆様、婆様と言っても、
婆様は
「うちの爺様じゃないよ、どこかの若者
が私をからかいに来たんだろう」
と、本当と思いませんでした。
そうして、あまり
「婆様、婆様、私だ。ここの家の爺様だ
よ」
と言うものだから、婆様は落ち着いてま
じまじと、爺様の着ている着物や他の物
を見てみると、やっぱり自分が縫ってあ
げた着物でした。
 ああ、それなら、自分の家の爺様なん
だとわかって、山菜がたくさん採れてよ
かったと爺様をねぎらって、二人で話を
していると、爺様が
「あまりたくさん採って、ゴロンを沢に転
んで落ちて、そこの沢の水を飲んだら
若くなったんだよ」
説明しました。

 すると、婆様は、近所の人達の話を聞
いて、前ピラの沢に行けば、若返る水
があるということを少し知っていたので、
爺様はその水を飲んだんだと思ったわ
けです。

「爺様がこんなに若返ったのだから、私
だけ年寄りではいられない」
と思って、次の朝早く起きて、爺様がま
だ起きないうちに山に急いで行きました


 そうして、爺様の話に聞いたところに
よると、ここのあたりじゃないかなと、前
ピラのヒラを歩いていると、爺様が転ん
で落ちて草が倒れている所が見えまし
た。
「あぁ、このあたりを爺様が踏みつけた
んだ」
と、そこを下りていったら、沢がありまし
た。
 そして、その沢のほうに、山からポリ
ポリと出ている水がありました。
「ああ、うちの爺様はこれを飲んだんだ
な、きっと」
と思って、婆様もそこにかぶりついて飲
みました。
 カプカプと。
「ああ、うまいこと、うまいこと」って飲ん
だのでしょう。
「だけど、これくらい飲んだって・・爺様よ
りもっと若くならなくちゃいけないから」
と、また、かぶりついてガブガブと飲ん
だわけです。

 家では、爺様が起きたら、婆様がいま
せんでした。
「婆様はどこにいったんだろう。山菜は
きちんと片付けたかな」
家中見て回りましたが山菜は片付けて
あるけれど、婆様はどこにもいませんで
した。
「あらーどうしたんだろう、うちの婆様は
何処に行ったんだろう」
と探したけれど、隣近所に尋ねても誰も
知りませんでした。
「ああ、困ってしまったな」と思いました。

 けれども、爺様は考えてみて
「きっと、うちの婆様は、私があそこの
水を飲んだと昨日話したから、その水を
飲みに行ったんじゃないかな、これは」
と思って、夕方になる前に、自分が転が
ったところの山に行ってみました。
 すると、自分が水を飲んだ側まで行く
と、なんだか
「ホンギャ、ホンギャ」
という声がしました。
「あらぁ、こんな山の中にどうして赤ん坊
がいるのかな」
と、急いで、その自分が水を飲んだ所
に行ってみました。

 すると、婆様が赤ん坊になって
「ホギャホギャ」と泣いているのです。爺
様は
「これは、婆様は若返りの水を飲みすぎ
たんだ、きっと」
と思って、婆様を抱き上げて、家に連れ
て帰って、オムツを取り替えたり、ミルク
をあげたりして、婆様が大きくなるまで
世話をして、仲良く暮らしましたとさ。


トッピンパラリノプー

藤原 晴子さん

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