屁鳴りベラ
昔、あるどごろにな、おどとあばと娘 と婿ど、四人えだっけど。 正月の朝ま、その婿、まんじ今まで、 おが そんだ神様なの拝むごどねえ婿 、 まん〜ず、ていねいに神様拝んで 歩ぐけど。 「なんえ、おがしおだな、不思議だおだ」 ど思って、姑あば聞いだけど。 「あに、あに、なえして おが 今日は神 様 拝んで歩ぐなだ」 「ん〜、おれよあまりいい夢見で、それ でありがでふて、拝んで歩いてらなだ」 って、そういうけど。 「そういういい夢だらば、おらださ聞がせ ねが」 「あ、絶対聞がせらえね、聞がせらえね 」 「そんたごど言わねェで、おら家さ きた なだおの。聞かせろよ、酒っこ いっぺ 飲ませる」 「なんぼそう言われだって、これだげ は、絶対聞がせらえね」 「お〜、おら家さきてな、おらさ聞がせら えねぇごた あるななば、おめどご 島 流しかけるど、それでもえが」 「ああ、え〜え」ってそういうけど。 次の日大工どご頼んで箱っこ作って、 婿どご川さ流してやったけど。 しばらく、婿ぁ流れていったば、、なん だがカヤカヤでどごさ行ったけど。した ばそれは鬼の島だけど。 「何えが、流れできたど、拾って人だば 喰べし。」 そういって鬼コだ、その箱引きあげだけ ど。ながぁ見だば、婿入ってだったごで 。 「あ、人だ、人だ、食ったほえ」 そう言ったば、そごさえだ年のとった鬼 ぁ 「まじ、びゃっこ待で、びゃっこ待で。こ れだてなにが理由あって流されてきた んだし。喰うななば、そのあどだってえ だへ、まずなしてだがそのわけ聞いだ ほえんだ」 「ああ、んだが んだが。おめよ。なして 流されで来たなだ」 「おれよ、あまりいい夢みで、家の人だ ちさ誰っさも聞がせねだへで、してこうし て言う事聞がねで、島流しかげられだ」 「ほう、んだらばへ、 おらどごさそれ聞がせねが」 「ああ、聞がせられね、聞がせられね」 「んだば、喰ってしまうど」 「ああ、食われだって聞がせられね」 なって言ったば、鬼っこだってますます 聞ぎでぐなるべった。 「んだば、びゃっこ待で」 まだぁ年のいった鬼ぁ、奥のほうさ行っ てきたけど、へらこ、片っぽう赤ゃして、 かげのほう黒いへらこたげで来たけど。 「この赤ゃほうでなぁ、あねこのケッチ 、テラッと撫でれば、ケツが鳴りだすな だ。黒いほうでテラッとなでればピタッと 止まるなだ」 「ほお、これはいいな」っどて見だのも 「これだげでは、んだのもなあ」 って、言ったば、 「んだら、びゃっこ待で」ってまだ奥さえ って、車っこ二台たげで来たけど。 「こっちは千里走る車で、こっちは二千 里走る車だ」 「ほう」 んで、二千里走る車さ、婿またがってみ で 「へば、こごしゃ、なんじせばこれ、動く なよ」 「ほれ、こごの黒いどこツポッと押せば これ走るなだ」 そういわれて、そご押しけだけど。した ばダッダッダッダッーて走って行ってし まったけど。 さあ、鬼っこだ、二千里走る車に乗っ て行がれだべし、千里走る車コ置がれ だたて、追いづぐごどもでぎねべし、 やじまげでしまったけど。 婿まだ、それさ乗って、ダッダッダど行 って、しばらく行ったば、ある長者どの の家の前でシタッと止まったけど。した ばそこで長者どのの、ええあねこぁ ケッチ デェンと出してションベしてらけ ど。 「これだな」 そさいって、知らねふりしてへらこの赤 ぇほうでテラッと撫でだけど、そうしたば あねこのケツが鳴りだしたけどな。 ♪シッポガ シッポガ シンデンジ ヒャカホーカ ホウガクジ ロクハラ キヨミズ ロッカクドウノ テエコノカワニ ナルバナアレ ドウフ ドウフ さあこりゃいいおんだ どて、あちこ ちさ行って、あねこだちのケッチ鳴らし てあれたけど。 そしてこんだ、しばらぐ行ってがら、戻 ってきたけど。したば一番先に鳴らした 長者どのの家の前さ来てみだば、大っ きい立て札 立ででらけど。 『おらえの娘な、奇病さ かがって なん ともならねし、これしゃ治してけだ人さな ば、なんでも望みの品ひゃけるがら、な んとかあれしてけねぇが』 っていう立て札立ででらけど。 こんだ婿「よし、これだ」ど思ってそご の家さ威張って「ごめん!」なんて入っ て行ったけど。 そしたば、そごの家のあば出はってきて 「あや、まんず、まんず、えぐ来てけだご ど。まんず、おら家でやじまげらへで、 なんとかおら家の娘どご治してけろ」 「ん、おれ、それ治しにきたなだ」 って言ったけど、 「んだのも、おめよ。そういう汚ねかっこ でくれば、おらえの娘がびっくりしてしま うへで、まず湯っこさ入ってひゃ、羽織 袴着ていってけろ、おれ用意しておぐが ら」 って言われで、婿ぁ、そごのえで湯さ入 って羽織袴着て威張って行ったけどよ。 そしたば、医者だぢカラーッと並んで えだっけど。その娘っこどご囲んで。 「何 オラだへで治せねようなの、こん た若造っこ、なんじして治すごど出来る んだって」 そういって医者だ見でるげど。 婿ぁ、どれどれなんて言って、しりのほう さ行ってチャッと布団っこ たくって、 ♪シッポガ シッポガ シンデンジ ヒャカホカ ホウガクジ ロクハラ キヨミズ ロッカクドウノ テエコノ カワニ ナルバナアレ ドウフ ドウフ って鳴ってるやつ、黒いほうでテラッと 撫でだば、今まで あんころ勢いえぐ鳴 ってだやつよ、 ♪シッポ・・ガ シッポ・・ガ シンデン・・ジ ヒャカ・・ホカ・・・ ホウガク・・ジ で、まだ黒いほうでテラッと撫でだば、ピ タッと止まってしまったけど。 さぁー医者だち、びっくりしてしまって みんなでんでワラワラど逃げてしまった けど。 「あーえがった、えがった。まじまじ、お がげさんで、おらえの娘の病気も治った し、なん〜でも望みのものやるがらへ、 なええがべ」 「やー、おれはなん〜にもそういう物 はいらねのも、おれどご、こごの家の婿 どのにおさめてけねべが」 「ああ〜、なんとかなってけろ」 そう言われで、そごの家の婿におさまっ たけど。 そしてそごの家の娘ど二人、上方参り から日本全国旅して回って歩いたっけ ど。 それが婿の見た夢だっけど。 とっぴんぱらり の ぷう |
昔あるところに、父と母と娘と婿が四 人で暮らしていました。 その婿が、ある正月の朝、今までそん なに神様を拝むことなどなかったのに、 とても丁寧に神様を拝んで歩いて いました。 「変なことだな、不思議だな」と、不審に 思って、姑が尋ねました。 「婿よ、婿よ、どうして今日は神様をそ んなに拝んでいるんだい」 「おれはとっても良い夢を見たので、あ りがたくて拝んで歩いているんだ」 と、そう言いました。 「そういういい夢なら、私たちに聞かせ てごらん」 「いやいや、絶対おしえられないよ」 「そんなことを言わないで。うちに婿にき たんだから、聞かせなさい。お酒をたく さん飲ませるからさ」 「いくらそう言われたって、これだけは 絶対おしえられません」 「ほう、うちの婿でありながら、家の者に 話せないことがあるのなら、お前を島流 しするぞ、いいのか」 「ああ、いいですよ」 と、婿は言いました。 次の日家の人たちは、大工に箱を作ら せて、婿を川に流してやりました。 しばらく婿が流れて行ったら、なんだ かにぎやかなところいきました。すると そこは鬼の島でした。 「何か流れてきたぞ。拾って人間なら喰 ってしまおう」 そういって、鬼たちが箱を引き上げまし た。中をみると婿が入っていたわけです 。 「あっ、人だ人だ、食ったほうがいい」 と言ったら、そこにいた年寄りの鬼が 「まず、少し待て。これには何か理由が あるだろう。喰うのはその後でもいいだ ろうから、なぜなのか話を聞いたほうが いいだろう」 「ああ、そうか。そうか。おまえ、なぜ流 されてきたんだ」 「おれはな、とてもいい夢を見たんだが 、家の人たち聞かせなかったんだ。言う ことを聞かないから流されたんだよ」 「おう、それなら、俺たちに教えろ」 「いやいや、おしえられないよ」 「それなら、喰ってしまうぞ」 「いやいや、喰われたっておしえられな いよ」なんて と言われたら、鬼達はますます聞きたく なるわけです。 「それじゃ、少し待て」 と、年寄りの鬼は、奥のほうに行きまし た。そして、しゃもじを、片側が赤くて、 裏側が黒いしゃもじを持ってきました。 「このしゃもじの赤いほうで、娘の尻を 撫でると、尻が鳴り出すんだ。黒いほう で撫でれば、それがピタリと止まるとい うものだ」 「へぇ、こりゃいいなぁ」 と言ってみたけれど、 「これだけでは、ちょっとなあ」 と言ったら 「それなら、少し待て」と言ってまだ奥へ 行って、車を二台持ってきました。 「これが千里走る車で、それが二千里 走る車だ」 「へぇ」 と言って、婿は二千里走る車に乗っ て 「じゃ、これはどうすれば動くんだい」 「ほら、その黒いところを押すと、これが 走り出すんだ」 とそう聞いて、婿はそこを押しました。 そして、ダッダッダッダーと走って行って しまいました。 さあ、鬼は二千里走る車に乗って行 かれてしまって、千里走る車を置いてい かれても、追いつく事もできず、どうにも なりませんでした。 婿は、それに乗ってドンドン行って、し ばらくしたら、ある長者の家の前で、ピ タッと止まりました。すると、そこの家の 年頃の娘が、お尻を出しておしっこをし ていました。 「これだなっ」 そこにいって、知らん振りして、しゃもじ の赤いほうで、テラッと撫でました。する と、さあ大変娘さんのお尻が鳴り出しま した。 ♪しっぽが しっぽが しんでんじ ひゃかほうか ほうがくじ 六波羅 清水 六角堂の 太鼓の皮に な〜るば な〜れ どうふ どうふ さあ、これはおもしろいもんだと、あち こちに行って娘さんたちのお尻を鳴らし て歩きました。 そして、しばらくしてから戻ってきまし た。すると、一番最初に鳴らした長者の 家の前に来てみたら、大きい立て札が 立っていました。 『家の娘が奇病にかかってしまった。ど うしても治らない。これを治せる者には 、なんでも望みの物をやる。 治せる者はいないか』 という立て札でした。 そこで婿は「よし、今だ」と思って、そ の家に威張って 「ごめんください!」と言って入っていき ました。 すると、そこの家の母親が出てきて 「まあまあ、よく来てくれました。まったく うちでは困っているので、どうかどうか、 うちの娘の病気を治してください」 「そうです。私が治してさしあげましょう」 と言いいました。 「けれども、あなた、そういう汚れた格 好では、うちの娘が驚いてしまいますか ら、まずお風呂に入ってから、羽織袴を 着ていってください。私が用意しておき ますから」 と言われて、婿はその家の風呂に入っ て、羽織袴になって威張っていきました 。 すると、大勢の医者がずらーっと並ん でいました。そこの娘を囲んで。 「なに!我々のような名医が治せないも のを、こんな若造がどうして治せるわけ がないだろう」 そう言って、医者たちが見ていました。 婿はどれどれと言って、お尻のほうに行 ってサッと布団をめくって ♪しっぽが しっぽが しんでんじ ひゃかほうか ほうがくじ 六波羅 清水 六角堂の 太鼓の皮に なるばなあれ どうふ どうふ と、鳴っているのを、黒いほうでテラッ と撫でたら、今まであれだけ勢いよく鳴 っていたのが ♪しっぽ・・が しっぽ・・が しんでん・・・じ ひゃか・・ほうか・・・ ほうがく・・じ で、また黒いほうでテラッと撫でたら、 ぴたっと止まってしまいました。 さぁ、医者たちはこんな若造が治した ものだから、驚いて、われ先にと逃げて 行きました。 「あ〜あ、よかった、よかった。お蔭様で うちの娘の病気が治りました。どんな物 でもお礼を差し上げたいのですが、なに をお望みでしょうか」 「いえいえ、私はそういう物は何もいらな いんですが、私をここの家の婿に入ら せてくれないでしょうか」 「ああ、ぜひぜひ 婿になって下さい」 そう言われて、そこの婿におさまりまし た。 そうして、そこの娘と二人で上方参り をしたり、日本中を旅して歩き回りまし た。 それが婿のみた「初夢」でした。 とっぴんぱらり の ぷう |
本間智佐子さん
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