姫んこ
昔々、山奥の小さな村のお城さな、 男ぶりのえ〜わげ〜殿様いだけど。 その殿様が、隣村のお城から嫁様も らったけど。 その嫁様は、綺麗だて、綺麗だおなご だけど。 殿様も喜んで、仲むつまじく暮らしてい るうち、めんこいおなごわらしこ生まれ だけど。 一歳、二歳と大きくなればなるほど、美 しふてめんこい娘っこだけど。 みんなして、姫様、姫様って言うんだし ぇん、姫ん子って呼ぶようになったけど 。 仲むつまじふて、楽しく暮らしてだのも 、姫ん子四つぐらいの時、かか様が急 に死んでしまったけど。姫ん子どごおえ で死なれでしまった殿様、困ってしまっ たけど。 殿様も都のお城さ、泊まりがけで仕事さ 行がねばでぎねじぎあるだしぇん、殿様 も思案して継母をもらうごどにしたけど。 はじめのうじぁ姫ん子どご、めんこえが るけじのも、大きぐなればまだ綺麗にな るんだしぇん、継母姫ん子どご、えじめ るようになったけど。 ある時、殿様な、都のお城さ仕事さ行 って、三晩ばり泊まって帰ってきたば、 いつも姫ん子「とと様ぁ〜」って迎えてく れるなさ、今日は姫ん子 えね。 なんじしたべって、殿様はしんぺになっ て、さっそく継母さ 「姫ん子なんじした」 って聞いたば、 「うん、姫ん子なば、昨日外さ遊びに行 ったきり帰ってこね」 って言ったきりだけど。 殿様びっくりして、お城の周りをさがし はじめだけど。 まわりにな、太い木ぁ、えっぺはえでで 、夕方になったべし、うっそうどした林の 中は暗くなりはじめだけど、殿様は 「姫ん子〜、姫ん子〜」 って呼びながら、木一本一本まわって 姫ん子どごさがしても、姫ん子、めっか らねけど。まだまだ奥の方さ行って見で がったのも、暗ぐなったんだし、まづ城 の中さ入って休んだけど。 次の朝、まだ夜が明けだが 明げね がの時起きて、又、林の中探しに行っ たけど。 姫ん子ー姫ん子ーって、夕べさがさね がった奥の方まで行ったけど。 したば、一番奥さ太え木ぁ横だわった ように生えでだ木の下から、ハヤーハ ヤーと、煙でもね蒸気でもねものが、立 ちのぼってだけど。 殿様 あれなんだべど近づいて見だ ば、そこは土が新しくほりおこされたよう になってだけど。ああ、ここだなとと思っ て、夢中でボリボリど掘ってみだけど。 そしたば、姫ん子泥だらけになってだけ ど。 殿様抱きかかえて「姫ん子、姫ん子」 って、ちらこの土おどして呼び起ごした ば、姫ん子目さまして、 「ああ、とと様、えぐ眠ったけ」って言って 、今までの姫ん子になったけど。 殿様城にいる時は、いつもと変わらな いが、殿様都の城さ行かねんねぐなれ ば、又何おきるかわがらね。 姫ん子殺されでしまうんだかも知れね ど思った殿様、姫ん子埋められでだど ごの木を切って、こそこそと舟を作って えだけど。 それから一年もして姫ん子五歳くらい の時、また都のお城さ行かねんねぐな ったけど。 旅に出る前の晩だけど、殿様人知れ ず作っておえだ舟持ってきて、赤げ き おのでったり積んで、ぐっすり眠ってだ 姫んこどご乗せで、 「姫んこすまんな、ええ人に拾われで幸 せに暮らせは」 って涙流して男泣きに泣ぎながら、川さ 流してやったけど。 姫んこぐっすり寝たままドンブリコドン ブリコど流れでいったけど。 川下でわらしのね爺様、川さ、ちら洗 いに行ってらば、何だが丸太みでだな 流れで来たなしゃ。拾って焚き物にしる べど思って、丸太のそばまで行って、び っくりしたけど。なんと赤げ きおのどっ さりかぶって、綺麗だて綺麗だわらしっ こスヤスヤど眠ってだけど。 川岸さひっぱり寄せで、婆様どご連れ できて二人してみどれでだば、綺麗だ 娘っこ目を覚ましたけど。 爺様と婆様大喜びで、 「おらえさ さじがった娘っこだ、何てい う なめ だ」 って聞いだば、姫んこだって言ったけど 。 どごがのお城のお姫様だんだな 粗 末にされねんだ、赤げ きおのはあるど も、食べ物はあまり粗末なでげね、爺様 ど婆様は気つかって、大事に大事に育 でだけど。 年重ねるごどに姫んこ美しふて めん こえふて、年ごろになったば あっちこっ ちがら嫁こに貰いにくるけど。んだども 姫んこ 「おら、爺様ど婆様に拾って育ででもら ったがらどごさも行がね、爺様と婆様ど 一緒に暮らす」 って言って、どごさも嫁っこにいかねけ ど。 三人で幸せに暮らしているうぢ、姫ん こ急に亡くなってしまったけど。爺様と婆 様どびっくりして、はじめのうぢ姫んこは 眠ってだなだど思ってだのも、息っこが 無んだがら、爺様ど婆様ど やぢァねふ てやぢァねふて、姫んこのそばでオエオ エど毎日泣えでえだけど。 そのうぢ、泣ぎ疲れで爺様と婆様はト ロッと寝でしまったけど。 何日がそうしているうぢ、婆様目覚ま して姫んこどご見だば、姫んこどごさ白 ふて びゃった虫っこ えっぺたがって だけど。婆様びっくりして 「爺様、爺様、起きで姫んこどご見での 、こりゃ、白ェ虫っこ えっぺ たがって だ」 爺様も目ェこすりこすり 姫んこどご見 だば、なんと白ェ虫っこ えっぺだごど。 爺様ど婆様ど たまげで見でるうぢ、姫 んこの体がスーッと消えで見えねぐなっ て、虫っこだぢばり、ワヤワヤど動えで だけど。 びっくりしてだ爺様に、婆様 「爺様、爺様、この虫っこ、姫んこの生 まれ代わりなんだ。何か食べさせで生 かしておがねねんだ。さあ行って 何が の葉っぱこでもめっけで来え。」 そう言われで、爺様外さ出て行って、ホ キの葉っぱがら、サシドリの葉っぱだ採 って帰ってきて、虫っこさ、けでみだのも 、さっぱり食いそうでね。 「爺様、爺様、姫んこ乗ってきた舟、あ れあ、何の木で出来た舟だって、爺様 見での」 婆様に言われで爺様、小屋さ大事にし まってだ舟、見に行ったば、桑の木で出 来た舟だけど。 「婆様、婆様、あの舟、桑の木で出来た 舟だっけ」 「んだら、桑の葉採ってきての」 と婆様に言われで、こんだ爺様桑の葉 採ってきたけど。 婆様、それ姫んこどさ けでみだば、な んと虫っこだあ、うめそうに口っこあげ で食いはじめだけじぉん。 それから毎日 爺様桑の葉こ採り、婆 様 えさ えで、姫んこどさ葉っぱこ け がだ、一日一日ど虫っこ大きくなるどご 見るど。 なんと 爺様 桑の葉っぱこ 取りたでな らねころ、大きくなったば食うて食うて、 んだども姫んこどごさ腹いっぺ食べさせ でど思って、爺様も婆様も一生懸命頑 張ったど。 そして、腹いっぺ食べだんだが、こん だあ戸だり、柱だり、えの中いっぺ、は い上がって、えの中真っ白になったけど 。爺様ど婆様びっくりしてあれよあれよ と見でるうぢ、こんどは虫っこだ、口から 糸っこ出して、虫の姿見えなぐなって えの中、繭で真っ白になったけど。 「爺様爺様、繭じぉな、これの事だべが 、絹糸じぉな、これがら取れるなだべが 」 婆様、かだぐなった繭からじゅんじゅん 糸取りはじめだけど。けど、何とあの繭 だおの、えの中、絹糸の山になったけど。 そうしたばそのころ、山の殿様が、都 の殿様さお土産にする何か珍しい物が あったら、お城まで届けでけろって言う おふれが回ったけど。 その話し聞いで、爺様と婆様は 「絹糸こんたにあったたて、なんじもしゃ ねがら、殿様にお土産にするな、持って 行ってけろかな」 って、爺様ど婆様ひとせずつしょって、 お城まで行ったけど。 そしたば、殿様大喜びで 「その絹糸、なんじして作った」 って、爺様と婆様さ聞いたけど。 そしたば爺様ど婆様 「赤げ着物えっぺもらって流れできた姫 んこどご拾った話しから、姫んこ、虫に なって、繭になって・・」 って話したば、 「その娘っこ、おれの娘っこであったな、 ええ人に拾われで幸せそうだったな」 と、殿様喜んで絹糸お土産にするな決 めだけど。 流してやって可哀想な事したな ど 思ったのも、姫んこもこんた形で、殿様 さ親孝行してくれたんだなと、心の中で 手を合わせて姫んこさ礼行ったけど。 姫んこどご ここまで育でてくれた爺様 ど婆様どご、こんだお城さ呼んで、姫ん こ育ての先生にして、繭や絹糸いっぺ 取れる村になって、裕福な村になったけ ど。 とっぴんぱらりのぷー |
昔々、山奥の小さな村のお城に、男 ぶりのいい若い殿様がいました。 その殿様が、隣村のお城からお嫁さ んをもらいました。 そのお嫁さんは、綺麗なきれいな女の 人でした。 殿様も喜んで、仲むつまじく暮らしてい るうち、可愛い可愛い女の子が生まれ ました。 一歳二歳と、大きくなればなるほど、美 しくて可愛い娘になっていきました。 みんなが「姫様、姫様」と言うものです から、「姫ん子」と呼ぶようになりました 。 仲むつまじくして、楽しく暮らしていまし たが、姫ん子が四歳ぐらいの時、お母さ んが急に亡くなってしまいました。姫ん 子をおいて死なれてしまった殿様は、大 変困りました。 都のお城に泊まりがけで仕事に出かけ なければならない時もあるので、殿様も 考えて継母(ままはは)をもらう事にしま した。 初めのうちは可愛がっていましたが、大 きくなるほど綺麗になっていくものだか ら、継母は姫ん子をいじめるようになり ました。 ある時、殿様は、都のお城に仕事に いって三晩ばかり泊まって帰ってきまし た。すると、いつも「お父さん〜」と迎え てくれるのに、今日は姫ん子がいませ ん。 どうしたんだろうと心配になって、継母 に 「姫ん子はどうした」 と、聞くと 「昨日外に遊びに行ったきり、帰って こない」 と言うだけでした。 殿様はびっくりして、お城の周りを探し 始めました。 まわりには、太い木がたくさん生えて いて、夕方になったのでうっそうとした林 の中は暗くなり始めたけれど、殿様は 「姫ん子〜、姫ん子〜」 と呼びながら、木を一本一本回って探し ましたが、姫ん子は見つかりませんでし た。もっともっと奥の方も探したかった けれど、暗くなってきたので、城に入っ て休みました。 次の朝、まだ夜が明けきらないうちに 起きて、また林の中に探しに行きました 。 姫ん子ーっと呼びながら、夕べ探せな かった奥まで行きました。 すると、一番奥の太い木が横たわっ たように生えている下から、ホワーッホ ワーッと、煙でもない蒸気でもないもの が、立ち上っていました。 殿様があれは何だろうと近づいて見る と、そこは土が新しく掘り起こされたよう になっていました。ああ、ここだなと、夢 中でボリボリと掘ってみました。すると、 姫ん子が土まみれになっていました。 殿様が抱きかかえて「姫ん子」 と、顔の土を落として呼び起こしたら、 姫んこは目を覚まして 「ああ、お父さん、ぐっすり眠ってた」 と言って、今までの姫ん子に戻りました 。 殿様がいる時は、いつもと変わらない けれど、都のお城に行かなければなら ないと、又、何が起きるかわからない。 姫んこは殺されてしまうかもしれないと 思った殿様は、姫んこが埋められてい た木を切って、こっそり舟を作っておき ました。 それから一年ほどして、姫んこが五歳 の時、又都のお城に行かなければなら なくなりました。 旅に出る前の晩、殿様は人知れず作 って置いた舟を持ってきて、赤い着物を たくさん積んで、ぐっすり眠っている姫ん こを乗せて、 「姫んこ、すまないなァ、いい人に拾わ れて幸せに暮らしておくれ」 と男泣きに泣きながら、川に流しました 。 姫んこはぐっすり眠ったままドンブリコ ドンブリコと流れていきました。 川下で子供のいないお爺さんが、川 に顔を洗いに来たら、何だか丸太のよ うなものが流れてきました。拾って焚き 木にしようと思って、丸太のそばまで行 って驚きました。なんと赤い着物の中に かわいいかわいい娘がスヤスヤと眠っ ていました。 川岸に引っ張り寄せて、お婆さんを呼 んできて二人で見とれていたら、かわい い娘が目を覚ましました。 お爺さんとお婆さんは大喜びで、 「私達の家に授かった娘だね、何という 名前かい」 と聞いたら「姫んこ」と答えました。 どこかのお姫様だろうから、粗末にして ないけないし、きれいな着物はあるけれ ど、食事もあまり粗末ではいけないなど と、お爺さんとお婆さんは気をつかっ て、大事に育てました。 年を重ねるごとに姫んこは美しく可愛 くなって、年頃になったらあちこちからお 嫁さんに貰いに来ました。 でも、姫んこは 「わたしは、お爺さんとお婆さんに拾って 育てて貰ったのだから、どこにも行かな いで、一緒に暮らします」 と、どこにも嫁にいきませんでした。 三人で幸せに暮らしているうちに、姫 んこが急に亡くなってしまいました。お 爺さんとお婆さんは驚いて、最初は姫ん こは眠っていると思っていましたが、息 をしてないので、可哀想で不憫で、姫ん この側でオイオイと毎日泣いていました 。 そのうち、泣き疲れてお爺さんとお婆 さんは眠ってしまいました。 何日かそうしているうち、お婆さんが 目を覚まして、姫んこを見てみると、白く て小さな虫がいっぱい集まっていました 。お婆さんはびっくりして 「お爺さん、お爺さん起きて姫んこを見 てごらん、ほら、白い虫がいっぱい集ま っているよ」 お爺さんも目をこすりこすり姫んこを見 たら、なんと白い虫がいっぱいいるでは ありませんか。お爺さんとお婆さんが驚 いて見ていると、姫んこの身体がスーッ と消えて見えなくなって、虫たちだけが動いていました。 びっくりしてたお爺さんに、お婆さんが 「お爺さん、この虫たちは 姫んこの生 まれ変わりだから、何か食べさせて 生 かしておかなきゃならないよ。さあ、行っ て何かの葉っぱでも見つけてきて」 そう言われて、お爺さんは外に出ていっ て、フキ(蕗)の葉っぱやイタドリの葉な どを採ってきて、虫たちにやってみたけ れど、さっぱり食べそうではありません 。 「お爺さん、姫んこの乗ってきた舟、あ れは何の木で出来た舟でしたっけ、お 爺さん見てきてくださいナ」 お婆さんに言われて、お爺さんは小屋 に大事にしまってある舟を見に行くと、 それは桑の木でできていました。 「お婆さん、あの舟は桑の木でできてい たよ」 「では、桑の葉を採ってきてみて」 とお婆さんに言われて、今度は桑の葉 を採ってきました。 お婆さんがそれを姫んこにやってみた ら、なんということか、虫たちがおいしそ うに口を開けて食べ始めました。 それから毎日、お爺さんは桑の葉採り 、お婆さんは家にいて、姫んこに葉を食 べさせて、一日一日と虫が大きくなると ころを見ていました。 お爺さんが葉を採るのが追いつかない ぐらいに、大きくなったら食べること食べ ること。でも、姫んこにおなかいっぱい 食べさせたいと思って、お爺さんもお 婆さんも一生懸命頑張りました。 そして、おなかいっぱいになったのか 、こんどは戸や柱や、家の中いっぱい に這い上がって、家中真っ白になりまし た。お爺さんとお婆さんが驚いて、あれ よあれよと見ていると、こんどは虫たち が口から糸を出して、姿が見えなくなっ て、家中繭で真っ白になりました。 「お爺さん、お爺さん、繭というのはこれ の事かね。絹糸というのは、これからと るのかね」 お婆さんは固くなった繭から、順ぐりに 糸を取りはじめました。ですが、あれほ どの繭の多さですから、家の中は絹糸 の山になりました。 そうしたらそのころ、山の方の殿様が 、都の殿様のお土産にする珍しい物が あったら、お城に届け出てほしい とい うおふれを回しました。 その話しを聞いて、お爺さんたちは 「絹糸がこんなにあっても、どうしようも ないから、お殿様にお土産にするのに 持っていってあげよう」 といって、お爺さんとお婆さんと一背負 いずつ背負って、お城に行きました。 すると、お殿様は大喜びで 「その絹糸はどうやって作ったのか」 と、お爺さんとお婆さんに尋ねました。 そこでお爺さんとお婆さんは 「赤い着物をたくさんもらって川を流れ てきた姫んこを拾って育てて、姫んこが 亡くなって虫になって、繭になって・・」 と話したら、 「その娘は私の娘だったのだな、いい人 に拾われて幸せだったのだ」 と、お殿様は喜んで、絹糸をお土産に することに決めました。 「流してやって可哀想なことをしたな」 とも、思ったけれど、姫んこもこんな形 で自分に親孝行してくれたのだと、心の 中で手を合わせて礼を言いました。 姫んこをここまで育ててくれたお爺さ んとお婆さんをお城に呼んで、姫んこ( かいこ)育ての指導をしてもらい、繭と 絹糸がいっぱいとれる村になって裕福 になりましたとさ。 とっぴんぱらりのぷー |
藤原晴子さん
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