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〒019-0803
秋田県雄勝郡東成瀬村椿川字堤31-2
まるごと自然館
TEL:0182-47-2362

東成瀬の昔っ子

ひとえ二日の初夢

 昔々あるけどよ。
あの、爺さんと婆さんといたけどよ。息
子ひとりえで、嫁っこ貰ってたけどよ。
その嫁っこと四人暮らしだけど。

 そこのえ貧乏で、正月だったって、う
めえもの食えなくて、四人して銭っこあ
るな、みんな集めて、やっとこのおみぎ
こ買ってきて、正月のおみぎこごちそう
になってよ
 「今日 元旦だから、ひとえ二日の初
夢って、たいしたいい夢見れば一年幸
せだっていうがら、だれが一番いい夢
見るが、あの晩げな、みんなして 夢見
こんだ」
ってゆって、その晩寝たけど。

 そいでこんだ、次の朝ま、爺さんな
 「ああ、みんな、みんな、こりゃ、なん
ぼいい夢みたけが聞かせろ」
ってゆったけど。
 そしたば、婆さんな
 「おら、なんたことねぇ、たいしたことね
ぇ夢だっけ」
って云ったけど。
 それから、あの、姉(あね)さんも
 「おらもなんたごどねぇ夢だっけな」
ってそう云ったけ。
 「爺さんなよ」ったら、爺さん
 「おれもたいしたええ夢なば見ねっけ
な」
ってゆったけど。そしたば、一番最後に
ほの息子、びゃっこ足りねぇ馬鹿息子と
つけてやらなけゃあ、と思い、そんでこ
んだ、
 「おめえなんたいい夢見たっけ」
ってゆったば、
 「おらなんぼいい夢みたっけ、あんな
いい夢みたことはねぇ」
って云ったけど。
 そしたらへ、
 「なんぼいい夢みたべ」
って云ったて。聞きでがったべ、その爺
さんと婆さんと嫁さんとな。

 「ただなば聞かせられね、まず 酒え
っぺぇ買ってこぇ」
って、そうゆったけど。そしたらば
 「んだが」
って、銭っコみんな集めていって、正月
やったんだがら、なんの銭っコねぇんだ
がら、嫁さんな、わがもらってきた あけ
キオノたげていって、質屋さ入れてきて
、買ってきて、飲まへだけど。
 一徳利てんてんに飲んだってえ、ええ
夢聞かせねっけど。
 「あや、ほら酒無くなった、聞かへろ」
 「まだまだ、こんころばりになったって
聞かせられね、
まだ」
なにも売るものがねぇんだがら、わ、も
らってきた 何だれかんだれ持って行っ
て売って、酒買ってきて飲ませて、二本
飲ませたたって、三本飲ませたったって
さっぱりそのいい夢聞かせねかったことや。
 そのうち、酔っぱっらって、寝でしまっ
たけど。

 「こりゃなんずおん、仕方ね。これなば
、馬鹿息子で、あれなんだ、かまきゃし
息子だ。こんだなどご 島流しさへろ」
って、そういって爺さんがよ、小屋のしま
っこさあった樽さへて、島流しかけてま
ったど。酒に酔っ払った息子な、樽さ入
れで。
 
 そしたらば、その息子はまず流されで
いったことや。
川をツプカプ流されでいって、まだその
先さ流されていって、鬼ヶ島さ こう上が
っていったわけな。
そしたば、ぐーんぐーんと寝でだのへ、
ほっと目ぇさましたば、樽の蓋開けて、}
鬼っこだ、つらこうみんなして その馬
鹿息子の面見てたんだど。
 「あ、これ 死んでね 死んでね」て、
言って、目開けて見たんだべな。大将ど
ごさ連れて行こうって言うんだけどな。

<大将 なんたんださ、いたんだべ>っ
て思って、今度は、そごさ連れていがれ
だごどや。そしたら、鬼ヶ島に 鬼がもっ
こりいで、ほの馬鹿息子のこと、大将の
前さ連れていったけどよ。
 「なんし、おめえへ島流しされたなんだ
、ここまで島流しされてくるってば、よっ
ぽど いぐねえごどしたがら島流しされ
だんだ」
って、大将ゆったけど。
そしたば、
 「おら、ゆぐねえごどなんかしねえ、正
月のひとえ二日の初夢へ、おがえぇ夢
見だけがら、あの、酒買ってきて飲ませ
れば聞かせるってゆって、あまり話ッコ

しねえへ、酒ッコえっぺ飲んだったっだ
へえ、聞かへねえだからへ、おれ 島流
しされたなだ」
って、ゆったけど。
 
 そしたば、そういういい初夢なんばへ
え、その鬼ッコの大将も聞きでぐなって
あったことや。
 「なんたいい夢見たっけって、おれさも聞かせろ」
って、そうゆったけどよ。そしたら、
 「ん、んだな、宝物でおん、取り換えす
ればあの話聞かせるたって、なにおめ
え、ただでなば聞かせられねぇ」
なんて言うけど。
そしたば、鬼ッコの大将、家来だどごさ
 「あれ持ってきての」
ってゆったけど。したば、こんころばりの
一尺ぐらいの箱ッコたげできたけど。
 「ないんだべ、こんころばりの宝物だ
なっていうような なえだおんなべ」
と思って、黙ってこうやって見てらば、そ
れから扇子出したけど、大将。

 「この扇子にな、こうあおいで『舞い上
がれ、舞い上がれ』って言えば、ずっと
上がっていくし、『舞い降りろ、舞い降り
ろ』っていえば、下さ降りてくるなだ」
って、そうゆったけど。
それで、
 「家来ださ、やらへてみてけろ」
ってゆったけど。
 「ほんとに、そういくか いかねぇか、
家来どごさ、やらへてみてけろ」
って、そうゆったばよ、家来、
 「舞い上がれ、舞い上がれ」
って、ずっと上さ上がっていったけど。
そして、今度は大将が、
 「降りてこえ」
って、ゆったんば、今度は
「舞い降りろ、舞い降りろ」
ってゆって、そこさ降りてきたけど。
 「こりゃいい宝物だこりゃ・・」
と思ってあったことや。

 それで、
 「これ一つではでぎねぇな」
すると、まあだ、家来どごさ
 「宝物、別なの持ってきての」
って言って、持ってこらせたけど。
そしたら、ちっせいこんころばりの箱ッコ
持ってきたけど。その箱ッコから、こう開
けて針ッコ取り出して、
 「これな、一番の宝物だ。こっちの方
の先ッコでチクッとやれば生ぎだ人死ん
で、こっちでチクッとやれば、死んだ人
生ぎ返るなだ」
ってゆったけど。それで
 「ほほう、こりゃいいな、んだら誰が家
来どごさ、試しにやってみでの」
ってゆったばよ、家来のこと一人寝へて
、死ぬほうのあれ、チクッとやったけど。
そしたば、コロッと死んでしまたけど。
それで今度は
 「んだば、生きらせの」
って、言ったば、反対のほうチクッとや
ったば、まだ生きたけどな。
 「こりゃ、ええな」
って思ってよ、今度は
「どれどれ、おらもべっこ試してみでがら
、べっこ針ッコ貸してみでけろ」
扇子と針ッコと、わ、前さこう持ってきて
おいて、
「これ みな おらさ ければへ、話して
聞かせるへ、おれどさ けるが」
ってそうゆったけど。
「あ、ける、ける。なんぼいい夢だが、ん
なば聞かせてみへろ」
「んだのな、おれへぇ、使ってへ、ほんと
にいくかいかねぇか、おれまずやってみ
ねぇね。」
ってゆって、針ッコの先ッコたげで、大
将の指ッコさチクッと刺して、したば、大
将死んでしまたけど。コロッと。
 
 そしたば、家来たちはどでんしてしま
って、大将死んでしまったって言って騒
ぎ始めだけど。あ、このうちだと、その
針ッコしまって、あの、扇子で
「舞い上がれ、舞い上がれ」
って逃げでいってしまたけど。
「舞い上がれ、舞い上がれ、舞い上が
れ・・」
と、ずっとずっと上がったら、鬼っこだ、
大将死んでしまったもんだがら、あっち
ゃこっちゃあわたいて歩いてらな、アリッ
コみでに見えだけど。

 「どっちさ行けば わえ なべな」
って思って、あっちこっち見ながら、わえ
の方さ行ったば、晩方になって暗ぐなっ
てきたけど。
 日が暮れて暗くなるからったって、
 「こりゃ、よま飛んで歩いてないで、ど
こかさ休まねんねな」
と思ったんば、村二つ三つ越えて行くう
ち、村はずれの一軒のえさ、提灯のあ
かりっこ出はったり入ったりするどご、
見えだけど。
 「あ、なんだべ、あっこの家さ、提灯な
、行き来する、何があるんだこりゃ」
と思って、
「舞い降りろ」ってやって降りて 様子見
だけど。そしたんば、なんだか、おいお
い泣く声する。
 「なんだべ、こりゃ、ここのうち誰かが
亡くなったまんまだな、こりゃ」
と思って、そろっと降りて、家さ入る人さ
聞いだど。
 「ここのえ、なにがあるなだが」
って聞いだど。
 「長者殿の一人娘、急に具合悪ぐなっ
て、医者頼んだたて治せなくって、いま
亡くなって、大騒ぎだ」
って、ほう言って聞がせだっけど。
 
 したば、
 「なして死んだなだが、おれさちょこっ
と見せでけろ」
てゆって、そこの家さまず入っていって
 「へば、おれ、この娘っこどご、生かし
てみろか」ってそうゆったけど。
 「や、それなばえがったごど。なんとか
生かしてみでけろ」
親だぢゆったけど。
 ただ生ぎるほうの針ッコの先ッコ、チ
クッとやればあれだどて、なにやら呪文
となえるふりまげで、
 「あちゃあちゃあちゃあちゃ」
てゆって、誰もわがらないうぢ生ぎる針
ッコでチクッと刺したけど。
 したば、娘っこ 手こ足こ動がしったけ
ど。
 ま〜だ、生きるほうの針ッコ チクッと
やったけど。
 「あ〜あ、よぐ、寝ったっけな」
って目さまして、生き返ったけずな。

 そしたば、そこの家の父さん母さん喜
んでしまって、一人娘の葬式出さねねど
ったな、生き返ったんだへんな、七日七
夜のおふるめだけど。
 「この人どご、一人娘の命に恩人だへ
んて、おらえの婿になってけろ」
って言われたけど。
 「婿なば、とでお だめだ。かかもいる
し、婿になってられね。まず、ひま もら
いで」
ってゆったば、
 「んだば、おめどごさ、宝物もっこりけ
でやるがら、褒美もっこりやるがら、ひと
つもらってけろ」
ってゆって、荷車さ褒美だどって、米な
んだが、酒なんだが、銭なんだが、もり
っと積んで、若勢達に荷車ひかへて、馬
鹿息子どご、その上さじゃんがり乗へで
 えさ帰ったことや。

 したば、爺さんと婆さんと
 「おらえの馬鹿息子なんじしたべ」
って、家の前で見でだけど。
 「なんだべ、おらえさ、荷車きた」
なんて、びっくりしてよ。
 「んだあら、馬鹿息子も帰ってきた、な
んだべ」
ってびっくりしてらば、米降ろすんだが、
味噌降ろすんだが、酒降ろすんだが若
勢だ 荷車がらじさま家さ降ろしていっ
たわけへ。
 「あららら、なんだべ、なんだべ、、今
まで貧乏してへ、なんにも食うおのねに
、あの馬鹿息子さ酒みな飲ませてへ、
なんにオ暮らしていくえねぇどたば、あ
の馬鹿息子は、なに、人のどごさえって
、盗んできたんだべぇ」
なんてどでんしてらな、今度は家さ入っ
て聞かせたことや。

 「なんじに、おめ、こういうふうに米が
ら何がら貰ってきたけな」
 「おれへ、夢、聞かせろってゆわれた
たって、聞かせねで、宝物ととっけえて
きたなだ。これど」
って、扇子とあれば、こうやってみへた
。そして、
 「こればへ、、針ッコ使ってへ、娘ッコ
生きかえらへで、礼貰ってきたなだ」
って、聞かせだっけど。

 その夢実現したがら、今度は聞かせ
たことや、爺さんと婆さんに。
 「なんただ夢だっけって、ひとえ二日の
初夢、なんただ夢見だなだ」
ってゆったばよ、貧乏で、田も無え家で
あったことや、
その夢、『水田(みずた)に舟を浮かば
せて、黄金(こがね)の山の漕ぎいでし』
なんけや。
 
 爺さんがそういって教えたっけな、い
い夢見た時は、人さぜったい聞かへだ
ってでぎね、聞がせねば、いいごどある
ど。悪い夢見た時はへ、みんなさしゃべ
って聞かせればいいってゆうことを。
 
田さ舟を浮かべてへ、黄金の山さ漕い
でいくどご、夢さ見だがら、
 「これなば、たいしたおんだ」
って思って、いい夢だべって聞かせねえ
で、どこまでもあれしたことや。馬鹿の
一つ覚えでいい夢見たなへ、
誰どさも聞かせねえで頑張ったことや。

 そして、爺さんと婆さんと嫁さんと幸せ
に暮らしたっけど。

まず、とっぴんぱらりのぴー  
   昔々のことです。
おじいさんとおばあさんがいました。そ
の家には息子が一人いて、嫁さんをも
らっていて、四人暮らしでした。

 その家は貧乏で、正月だといっても、
おいしい物も食べられません。四人で、
あるお金をみんなかき集めて、ほんの
少しの御神酒を買ってきて、ごちそうに
なりました。
 「今日は元旦だから、ひとえ二日の初
夢というのは、良い夢を見れば一年幸
せだというからなあ。だれが一番良い夢
をみるか、今晩はみんなで夢を見ること
にしよう」
と話して、その晩は眠りました。

 そうして、次の朝、おじいさんが
 「みんな、みんな、どんないい夢を見
たか、話してみなさい」
と言いました。
 そうしたら、おばあさんは
 「わたしは、どうってことはない。たいし
たことのない夢だったよ」
と言いました。
 それから、嫁さんも
 「私もどうってことのない夢でした」
とそう言いました。
 「おじいさんの夢は?」と聞いたら、
 「私もたいしたいい夢は見なかったな
ァ」
と言いました。そしたら、一番最後にそ
の息子に、少し足りない馬鹿息子とつ
けなけりゃ と思いながら、今度は
 「おまえはどんないい夢を見たんだ」
と言ったら
 「おいらはとってもいい夢を見たよ、あ
んないい夢は見たことがないよ」
と言いました。
 そうしたら
 「どんないい夢を見たんだろうか」
と言いました。聞きたかったのでしょう
ね、おじいさんとおばあさんと嫁さんた
ちは。

 「ただでなんか教えられないな、まず 
酒をたくさん買ってきてくれ」
とそう言いました。そしたら
 「そうか、わかったよ」
と言ったものの、お金を全部集めてやっ
と正月をしたんだから、なにもありませ
ん。嫁さんは、自分が貰ってきた赤い着
物を持っていって、質屋に入れて、お酒
を買ってきて飲ませました。
 徳利一本無くなるまで飲んだけれど,
いい夢の話しを教えませんでした。
 「ほら、酒が無くなった。話してくれな
いかい」
 「まだまだ、これぐらいになったって、
聞かせられないよ、まだ」
何も売るものが無いので、自分が貰っ
てきたものを何から何まで持って行って
売って、酒を買ってきて飲ませました。
二本飲ませても、三本飲ませても、さっ
ぱりいい夢の話をしませんでした。
 そのうち、酔って寝てしまいました。

 「これじゃどうにも しょうがないな。こ
いつは馬鹿息子で、家を破産させるぞ
。こんなやつ、島流しにしてしまえ」
と言って、じいさんは小屋の隅にあった
樽に入れて、島流ししてしまったのです
。酒に酔っぱらった息子を樽の中に入
れて。


 そうしたら、息子は流されていきました
。川をずーっと流されて、もっとその先
に流されていって、やがて鬼ヶ島に着き
ました。
そうして、グウーグウー寝ていたのに、
フッと目を覚ましたら、樽の蓋を開けて
、鬼たちが顔をよせてのぞき込んで馬
鹿息子の顔を見ていたのでした。
 「あ これは死んでない 死んでない」
といって、目を開けた息子を、大将のと
ころに連れて行こうと言ったそうです。

 <大将はどんなところにいるんだろ>
と思っている
と、今度はそこに連れて行かれたわけ
です。鬼ヶ島に鬼が大勢いて、その馬
鹿息子を大将の前に連れて行きました

 「どうしてお前は島流しにされたんだ。
ここまで流されてくるということは、よほ
ど悪いことをしたんだな」
と大将が言いました。
すると、
 「おいら、悪いことなんかしてないよ。
正月のひとえ二日の初夢で、とってもい
い夢を見たから、酒を買ってきて飲ませ
れば聞かせると言ったのに、あんまり話
さないもんだから、酒をたくさん飲んだっ
て話さないもんだから、島流しにされた
んだ」
と言いました。

 そうしたら、そんなにいい初夢ならと、
その鬼の大将も聞きたくなってきたんで
す。
 「どんないい夢を見たんだって、おれ
にも聞かせろ」
と言いました。
そしたら
 「そうだな、宝物とでも取り換えるなら
聞かせるけれど、ねえ大将、ただでは
聞かせられないよ」
などと言うのでした。
すると、鬼の大将は、家来に
 「あれを持ってこい」
と言いました。
すると、これぐらいの一尺ぐらいの箱を
持ってきました。
 「何だろう、これくらいの宝物だなんて
いうような、どんな物なんだろう」
と思って黙ってこうやって見ていると、大
将はそれから扇子を出しました。

 「この扇子に、こうあおぎながら『舞い
上がれ、舞い上がれ』と言えば、ずっと
上がって行くし、『舞い降りろ、舞い降り
ろ』って言えば、下に降りてくるんだ」
と言いました。
それで、
 「家来たちに、やらせてみてくれ」
と言いました。
 「本当にそうなるかどうか、家来にやら
せてみてくれ」
と言うと、家来は
 「舞い上がれ、舞い上がれ」
とやって、ずっと上に上がりました。
そして、今度は大将が
 「降りてこい」
と言ったら、
 「舞い降りろ、舞い降りろ」
と言って、そこに降りてきました。
 「これはいい宝物だ・・・」
と、息子は思ったわけです。

 それで、
 「これ一つでは、話はできないナア」
と言うと、大将はまた家来に
 「宝物、別の物を持って来い」
と言って持ってこさせました。
そしたら、小さいこれくらいの箱を持って
きました。その箱を開けて、針を取り出
して、
 「これはな、一番の宝物だ。こちらの
先でチクッと刺せば生きている人が死
ぬが、こちらでチクッと刺せば、生き返
ってくるんだ」
と言いました。それで、
 「ほほう、これはいい。それなら、誰か
家来に試してみてくれ」
と言ったら、大将は家来を一人寝かせ
て、死ぬ方でチクッとやりました。すると
、コロッと死んでしまいました。
そして今度は
 「そしたら、生き返らせてみろ」
と言うと、反対のほうでチクッとやったら
、また生き返ったのでした。
 「これは、いいなあ」
と思って、今度は
「どれどれ、おいらもちょっと試してみた
いから、ちょっと針を貸してみてくれ」
扇子と針を、自分の前に持ってきてお
いて、
「これをみんなくれるなら、話してきかせ
てもいいが、おいらにくれるか」
とそう言いました。
「ああ、やろう、やろう。どんないい夢か
、それなら話してみろ」
「だけど、おいらが使ってみても、本当
にいくかいかないか。まずやってみなく
ちゃ」
と言って、針の先を持って、大将の指に
チクッと刺したら、大将はコロッと死んで
しまいました。
 
 すると、家来たちは驚いてしまって、大将が死んだと騒ぎ始めました。
あ、今のうちだと思って、その針をしまう
と、あの扇子で
「舞い上がれ、舞い上がれ」
と息子は逃げていってしまいました。
「舞い上がれ、舞い上がれ、舞い上が
れ・・」
と、ずっとずっと上がったら、鬼たちが、
大将が死んでしまったので、あっちこっ
ちあわてて歩いているのが、蟻のように
小さく見えたそうです。

 「どっちへ行けば自分の家があるん 
だろう」とあちこち見ながら行くと夕方に
なって暗くなってきました。
 日が暮れて暗くなるので
 「夜中に飛んでないで、どこかに休ま
なくちゃ」
と思ったら、村を二つ三つ越えていくう
ち、村はずれの一軒の家に提灯の灯り
が出たり入ったりするところが見えまし
た。
 「あ、なんだろう、あの家に提灯が行
き来するけど、何があったんだろうか」
と思って、
「舞い降りろ」と言って降りて、様子を見
ました。
すると、おいおいと泣く声がします。
 「なんだろう、この家の誰かが亡くなっ
たばかりなんだな」
と思って、そうっと降りて、家に入る人に
 「この家で、なにかあったのですか」
と聞きました。
 「長者殿の一人娘さんが急に具合が
悪くなって、医者に診て貰ったけれど治
せなくって、今亡くなって大騒ぎしている
ところです」
と、そう言って聞かせました。

 すると、
 「どうして死んだのか、私に少し見せて
ください」
と言って、家に入っていって
 「では、この娘さんを生き返らせてみ
せましょうか」
と言いました。
 「それならなんと良いことか、何とか生
き返らせてください」
と、両親が頼みました。
 ただ生き返る方の針の先で刺すより
も、格好がつくだろうと、呪文を唱える
ふりをして
 「あちゃあちゃあちゃ」
と言って、誰にもわからないうちに、生
きる針で刺しました。
 すると娘さんが手や足を少し動かしま
した。
  それで、また生きる方の先で、チクッと
刺しました。
 「あ〜あ、よく眠ったわ」
と目をさまして、生き返ったそうです。

 そうしたら、その家のお父さんもお母
さんも喜んで、一人娘の葬式を出さなけ
ればならなかったのが生き返ったのだ
から、七日七夜の宴会でした。
 「この人は一人娘の命の恩人なんだ
から、うちのお婿さんになってください」
と言われました。
 「お婿さんはだめです。奥さんもいる
ので、婿にはなれません。まず、帰らせ
て下さい」
と言ったら
 「それなら、あなたに宝物をたくさんあ
げるから、お礼
もたくさんやるので、貰って下さい」
と言ってくれたので、荷車に、宝物から
米やら、酒やら、お金やらたくさん積ん
で、使用人たちに引かせて、息子をそ
の荷物の上にドンと乗せて、家に帰ら
せました。

 そうしたら、おじいさんとおばあさんは
 「うちの馬鹿息子はどうなっただろう」
と、家の前で見ていると
 「なんだろう、うちに荷車が来たよ」
と、びっくりました。
 「どうしたんだ、馬鹿息子も帰ってきた
、なんだろう」
と、驚いていると、使用人たちは荷車か
ら、米やら、味噌やら、酒やらを、おじい
さんの家に降ろしていったわけです。

 「おいおい、どうした、どうしたんだ。今
まで貧乏していて、何も食べる物が無い
のに、あの馬鹿息子に酒をみんな飲ま
せてしまって、何も無くて暮らしていかれ
ないと思っていたのに、あの馬鹿息子
は、何をよその人から盗んできたんだ」
などと驚いているので、今度は家に入っ
て話したわけです。

 「どうやって、おまえ、こんなふうに米
から何から貰ってきたんだ」
 「おいら、初夢の話を言えと言われて
も話さないで、宝物と取り換えてきたん
だ、これと」
と言って、扇子と針をこうしてみせました
。そして、
 「この米や酒は、針を使って娘さんを
生き返らせて、お礼に貰ったんだ」
と話しました。
 
 夢が実現したので、今度は話したわ
けです。おじいさんとおばあさんに。
 「どんな夢だったんだ、ひとえ二日の
初夢、どんな夢を見たんだ」
と言われて話したのは、貧乏で、田んぼ
も無い家なのに、その夢は、『水田に舟
を浮かばせて、黄金の山に向かって漕
いでいく』夢だったのです。
 
 おじいさんが教えてくれたことがあった
んです。いい夢を見た時は、人には絶
対に話てはいけない。話さなかったら、
よい事が起きる。悪い夢を見たときは、
みんなに話せばいいという事を。
 
 田んぼに舟を浮かべて、黄金の山に
漕いでいくところを夢に見たから
 「これはたいしたもんだ」
と思って、いい夢だからと話さないでど
こまでも通したのです。馬鹿の一つ覚え
で、いい夢を見たことを誰にも話さない
で頑張ったわけです。

 そして、おじいさんとおばあさんと嫁さ
んと幸せに暮らしたそうです。

まず、 とっぴんぱらりのぴー

藤原晴子さん

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