東成瀬の昔っこ
ひとえ二日の初夢
| 昔々あるけどよ。 あの、爺さんと婆さんといたけどよ。 息子ひとりえで、嫁っこ貰ってたけど よ。その嫁っこと四人暮らしだけど。 そこのえ貧乏で、正月だったって、う めえもの食えなくて、四人して銭っこあ るな、みんな集めて、やっとこのおみぎ こ買ってきて、正月のおみぎこごちそう になってよ 「今日 元旦だから、ひとえ二日の初 夢って、たいしたいい夢見れば一年幸 せだっていうがら、だれが一番いい夢 見るが、あの晩げな、みんなして 夢 見こんだ」 ってゆって、その晩寝たけど。 そいでこんだ、次の朝ま、爺さんな 「ああ、みんな、みんな、こりゃ、なん ぼいい夢みたけが聞かせろ」 ってゆったけど。 そしたば、婆さんな 「おら、なんたことねぇ、たいしたこと ねぇ夢だっけ」 って云ったけど。 それから、あの、姉(あね)さんも 「おらもなんたごどねぇ夢だっけな」 ってそう云ったけ。 「爺さんなよ」ったら、爺さん 「おれもたいしたええ夢なば見ねっけ な」 ってゆったけど。そしたば、一番最後に ほの息子、びゃっこ足りねぇ馬鹿息子と つけてやらなけゃあ、と思い、そんでこんだ、 「おめえなんたいい夢見たっけ」 ってゆったば、 「おらなんぼいい夢みたっけ、あんな いい夢みたことはねぇ」 って云ったけど。 そしたらへ、 「なんぼいい夢みたべ」 って云ったて。聞きてかったべ、その爺 さんと婆さんと嫁さんとな。 「ただなば聞かせられね、まず 酒え っぺぇ買ってこぇ」 って、そうゆったけど。そしたらば 「んだが」 って、銭っコみんな集めていって、正月 やったんだがら、なんの銭っコねぇんだ がら、嫁さんな、わがもらってきた あけ キオノたげていって、質屋さ入れてきて、買ってきて、飲まへだけど。 一徳利てんてんに飲んだってえ、ええ 夢聞かせねっけど。 「あや、ほら酒無くなった、聞かへろ」 「まだまだ、こんころばりになったって 聞かせられね、まだ」 なにも売るものがねぇんだがら、わ、も らってきた 何だれかんだれ持って行っ て売って、酒買ってきて飲ませて、二本 飲ませたたって、三本飲ませたったって さっぱりそのいい夢聞かせねかったこと や。そのうち、酔っぱっらって、寝でしまったけど。 「こりゃなんずおん、仕方ね。これな ば、馬鹿息子で、あれなんだ、かまきゃ し息子だ。こんだなどご 島流しさへろ」 って、そういって爺さんがよ、小屋のしまっこさあった樽さへて、島流しかけてまったど。酒に酔っ払った息子な、樽さ入れで。 そしたらば、その息子はまず流されで いったことや。川をツプカプ流されでい って、まだその先さ流されていって、鬼ヶ島さ こう上がっていったわけな。 そしたば、ぐーんぐーんと寝でだのへ、 ほっと目ぇさましたば、樽の蓋開けて、 鬼っこだ、つらこうみんなして その馬鹿息子の面見てたんだど。 「あ、これ 死んでね 死んでね」て、言って、目開けて見たんだべな。大将どごさ連れて行こうって言うんだけどな。 <大将 なんたんださ、いたんだべ>って思って、今度は、そごさ連れていがれだごどや。そしたら、鬼ヶ島に 鬼がもっこりいで、ほの馬鹿息子のこと、大将の前さ連れていったけどよ。 「なんし、おめえへ島流しされたなんだ、ここまで島流しされてくるってば、よっぽどいぐねえごどしたがら島流しされだんだ」って、大将ゆったけど。 そしたば、 「おら、ゆぐねえごどなんかしねえ、正 月のひとえ二日の初夢へ、おがえぇ夢 見だけがら、あの、酒買ってきて飲ませ れば聞かせるってゆって、あまり話ッコ しねえへ、酒ッコえっぺ飲んだったってへえ、聞かへねえだからへ、おれ 島流しされたなだ」 って、ゆったけど。 そしたば、そういういい初夢なんばへえ、その鬼ッコの大将も聞きでぐなってあったことや。 「なんたいい夢見たっけって、おれさも聞かせろ」 って、そうゆったけどよ。 そしたら、 「ん、んだな、宝物でおん、取り換えすればあの話聞かせるたって、なにおめえ、ただでなば聞かせられねぇ」 なんて言うけど。 そしたば、鬼ッコの大将、家来だどごさ 「あれ持ってきての」 ってゆったけど。したば、こんころばりの一尺ぐらいの箱ッコたげできたけど。 「ないんだべ、こんころばりの宝物だなっていうような なえだおんなべ」 と思って、黙ってこうやって見てらば、それから扇子出したけど、大将。 「この扇子にな、こうあおいで『舞い上 がれ、舞い上がれ』って言えば、ずっと 上がっていくし、『舞い降りろ、舞い降り ろ』っていえば、下さ降りてくるなだ」 って、そうゆったけど。 それで、 「家来ださ、やらへてみてけろ」 ってゆったけど。 「ほんとに、そういくか いかねぇか、 家来どごさ、やらへてみてけろ」 って、そうゆったばよ、家来、 「舞い上がれ、舞い上がれ」 って、ずっと上さ上がっていったけど。 そして、今度は大将が、 「降りてこえ」 って、ゆったんば、今度は 「舞い降りろ、舞い降りろ」 ってゆって、そこさ降りてきたけど。 「こりゃいい宝物だこりゃ・・」 と思ってあったことや。 それで、 「これ一つではでぎねぇな」 すると、まあだ、家来どごさ 「宝物、別なの持ってきての」 って言って、持ってこらせたけど。 そしたら、ちっせいこんころばりの箱ッ コ持ってきたけど。その箱ッコから、こう 開けて針ッコ取り出して、 「これな、一番の宝物だ。こっちの方 の先ッコでチクッとやれば生ぎだ人死ん で、こっちでチクッとやれば、死んだ人 生ぎ返るなだ」 ってゆったけど。それで 「ほほう、こりゃいいな、んだら誰が家 来どごさ、試しにやってみでの」 ってゆったばよ、家来のこと一人寝へ て、死ぬほうのあれ、チクッとやったけ ど。そしたば、コロッと死んでしまたけ ど。それで今度は 「んだば、生きらせの」 って、言ったば、反対のほうチクッとや ったば、まだ生きたけどな。 「こりゃ、ええな」 って思ってよ、今度は 「どれどれ、おらもべっこ試してみでがら、べっこ針ッコ貸してみでけろ」 扇子と針ッコと、わ、前さこう持ってきておいて、 「これ みな おらさ ければへ、話して聞かせるへ、おれどさ けるが」 ってそうゆったけど。 「あ、ける、ける。なんぼいい夢だが、んなば聞かせてみへろ」 「んだのな、おれへぇ、使ってへ、ほんとにいくかいかねぇか、おれまずやってみねぇね。」 ってゆって、針ッコの先ッコたげで、大将の指ッコさチクッと刺して、したば、大将死んでしまたけど。コロッと。 そしたば、家来たちはどでんしてしまって、大将死んでしまったって言って騒ぎ始めだけど。あ、このうちだと、その針ッコしまって、あの、扇子で 「舞い上がれ、舞い上がれ」 って逃げでいってしまたけど。 「舞い上がれ、舞い上がれ、舞い上がれ・・」と、ずっとずっと上がったら、鬼っこだ、大将死んでしまったもんだがら、あっちゃこっちゃあわたいて歩いてらな、アリッコみでに見えだけど。 「どっちさ行けば わえ なべな」 って思って、あっちこっち見ながら、わえの方さ行ったば、晩方になって暗ぐなってきたけど。 日が暮れて暗くなるからったって、 「こりゃ、よま飛んで歩いてないで、どこかさ休まねんねな」 と思ったんば、村二つ三つ越えて行くうち、村はずれの一軒のえさ、提灯のあかりっこ出はったり入ったりするどご、見えだけど。 「あ、なんだべ、あっこの家さ、提灯な、行き来する、何があるんだこりゃ」 と思って、「舞い降りろ」ってやって降りて 様子見だけど。そしたんば、なんだか、おいおい泣く声する。 「なんだべ、こりゃ、ここのうち誰かが亡くなったまんまだな、こりゃ」 と思って、そろっと降りて、家さ入る人さ聞いだど。 「ここのえ、なにがあるなだが」 って聞いだど。 「長者殿の一人娘、急に具合悪ぐなって、医者頼んだたて治せなくって、いま亡くなって、大騒ぎだ」 って、ほう言って聞がせだっけど。 したば、 「なして死んだなだが、おれさちょこっと見せでけろ」 てゆって、そこの家さまず入っていって 「へば、おれ、この娘っこどご、生かしてみろか」 ってそうゆったけど。 「や、それなばえがったごど。なんとか生かしてみでけろ」 親だぢゆったけど。 ただ生ぎるほうの針ッコの先ッコ、チクッとやればあれだどて、なにやら呪文となえるふりまげで、 「あちゃあちゃあちゃあちゃ」 てゆって、誰もわがらないうぢ生ぎる針ッコでチクッと刺したけど。 したば、娘っこ 手こ足こ動がしったけど。 ま〜だ、生きるほうの針ッコ チクッとやったけど。 「あ〜あ、よぐ、寝ったっけな」 って目さまして、生き返ったけずな。 そしたば、そこの家の父さん母さん喜んでしまって、一人娘の葬式出さねねどったな、生き返ったんだへんな、七日七夜のおふるめだけど。 「この人どご、一人娘の命に恩人だへんて、おらえの婿になってけろ」 って言われたけど。 「婿なば、とでお だめだ。かかもいるし、婿になってられね。まず、ひま もらいで」 ってゆったば、 「んだば、おめどごさ、宝物もっこりけでやるがら、褒美もっこりやるがら、ひとつもらってけろ」 ってゆって、荷車さ褒美だどって、米なんだが、酒なんだが、銭なんだが、もりっと積んで、若勢達に荷車ひかへて、 馬鹿息子どご、その上さじゃんがり乗へ で えさ帰ったことや。 したば、爺さんと婆さんと 「おらえの馬鹿息子なんじしたべ」 って、家の前で見でだけど。 「なんだべ、おらえさ、荷車きた」 なんて、びっくりしてよ。 「んだあら、馬鹿息子も帰ってきた、なんだべ」 ってびっくりしてらば、米降ろすんだが、 味噌降ろすんだが、酒降ろすんだが、 若勢だ 荷車がらじさま家さ降ろしてい ったわけへ。 「あららら、なんだべ、なんだべ、、今 まで貧乏してへ、なんにも食うおのね に、あの馬鹿息子さ酒みな飲ませて へ、なんにお暮らしていくえねぇどたば、 あの馬鹿息子は、なに、人のどごさえっ て、盗んできたんだべぇ」 なんてどでんしてらな、今度は家さ入っ て聞かせたことや。 「なんじに、おめ、こういうふうに米が ら何がら貰ってきたけな」 「おれへ、夢、聞かせろってゆわれた たって、聞かせねで、宝物ととっけえてきたなだ。これど」 って、扇子とあれば、こうやってみへ た。そして、 「こればへ、、針ッコ使ってへ、娘ッコ 生きかえらへで、礼貰ってきたなだ」 って、聞かせだっけど。 その夢実現したがら、今度は聞かせ たことや、爺さんと婆さんに。 「なんただ夢だっけって、ひとえ二日 の初夢、なんただ夢見だなだ」 ってゆったばよ、貧乏で、田も無え家で あったことや、その夢、『水田(みずた) に舟を浮かばせて、黄金(こがね)の山 の漕ぎいでし』なんけや。 爺さんがそういって教えたっけな、い い夢見た時は、人さぜったい聞かへだ ってでぎね、聞がせねば、いいごどある ど。悪い夢見た時はへ、みんなさしゃべ って聞かせればいいってゆうことを。 田さ舟を浮かべてへ、黄金の山さ漕 いでいくどご、夢さ見だがら、 「これなば、たいしたおんだ」 って思って、いい夢だべって聞かせねえ で、どこまでもあれしたことや。馬鹿の 一つ覚えでいい夢見たなへ、誰どさも 聞かせねえで頑張ったことや。 そして、爺さんと婆さんと嫁さんと幸せ に暮らしたっけど。 まず、とっぴんぱらりのぴー |
昔々のことです。 おじいさんとおばあさんがいました。そ の家には息子が一人いて、嫁さんをも らっていて、四人暮らしでした。 その家は貧乏で、正月だといっても、 おいしい物も食べられません。 四人で、あるお金をみんなかき集め て、ほんの少しの御神酒を買ってきて、 ごちそうになりました。 「今日は元旦だから、ひとえ二日の初 夢というのは、良い夢を見れば一年幸 せだというからなあ。だれが一番良い 夢をみるか、今晩はみんなで夢を見る ことにしよう」 と話して、その晩は眠りました。 そうして、次の朝、おじいさんが 「みんな、みんな、どんないい夢を見 たか、話してみなさい」 と言いました。 そうしたら、おばあさんは 「わたしは、なに、どうってことはな い。たいしたことのない夢だったよ」 と言いました。 それから、嫁さんも 「私もどうってことのない夢でした」 とそう言いました。 「おじいさんの夢は?」と聞いたら、 「私もたいしたいい夢は見なかったな ァ」 と言いました。そしたら、一番最後にそ の息子に、少し足りない馬鹿息子とつ けなけりゃ と思いながら、今度は 「おまえはどんないい夢を見たんだ」 と言ったら 「おいらはとってもいい夢を見たよ、あ んないい夢は見たことがないよ」 と言いました。 そうしたら 「どんないい夢を見たんだろうか」 と言いました。聞きたかったのでしょう ね、おじいさんとおばあさんと嫁さんた ちは。 「ただでなんか教えられないな、まず 酒をたくさん買ってきてくれ」 とそう言いました。そしたら 「そうか、わかったよ」 と言ったものの、お金を全部集めてや っと正月をしたんだから、なにもありま せん。嫁さんは、自分が貰ってきた赤 い着物を持っていって、質屋に入れて、 お酒を買ってきて飲ませました。 徳利一本無くなるまで飲んだけれど、いい夢の話しを教えませんでした。 「ほら、酒が無くなった。話してくれな いかい」 「まだまだ、これぐらいになったって、聞 かせられないよ、まだ」 何も売るものが無いので、自分が貰っ てきたものを何から何まで持って行って 売って、酒を買ってきて飲ませました。 二本飲ませても、三本飲ませても、さっ ぱりいい夢の話をしませんでした。その うち、酔って寝てしまいました。 「これじゃどうにも しょうがないな。こ いつは馬鹿息子で、家を破産させる ぞ。こんなやつ、島流しにしてしまえ」 と言って、じいさんは小屋の隅にあった樽に入れて、島流ししてしまったのです。酒に酔っぱらった息子を樽の中に入れて。 そうしたら、息子は流されていきまし た。川をずーっと流されて、もっとその 先に流されていって、やがて鬼ヶ島に着きました。 そうして、グウーグウー寝ていたのに、 フッと目を覚ましたら、樽の蓋を開け て、鬼たちが顔をよせてのぞき込んで馬鹿息子の顔を見ていたのでした。 「あ これは死んでない 死んでない」 といって、目を開けた息子を、大将のと ころに連れて行こうと言ったそうです。 <大将はどんなところにいるんだろ>と思っていると、今度はそこに連れて行かれたわけです。鬼ヶ島に鬼が大勢いて、その馬鹿息子を大将の前に連れて行きました。 「どうしてお前は島流しにされたんだ。ここまで流されてくるということは、よほど悪いことをしたんだな」 と大将が言いました。 すると、 「おいら、悪いことなんかしてないよ。 正月のひとえ二日の初夢で、とってもい い夢を見たから、酒を買ってきて飲ま せれば聞かせると言ったのに、あんま り話さないもんだから、酒をたくさん飲 んだって話さないもんだから、島流しに されたんだ」 と言いました。 そうしたら、そんなにいい初夢ならと、その鬼の大将も聞きたくなってきたんです。 「どんないい夢を見たんだって、おれにも聞かせろ」 と言いました。 そしたら 「そうだな、宝物とでも取り換えるなら聞かせるけれど、ねえ大将、ただでは聞かせられないよ」 などと言うのでした。 すると、鬼の大将は、家来に 「あれを持ってこい」 と言いました。すると、これぐらいの一尺ぐらいの箱を持ってきました。 「何だろう、これくらいの宝物だなんていうような、何なんだろう」 と思って黙って見ていると、大将はそれから扇子を出しました。 「この扇子に、こうあおぎながら『舞い 上がれ、舞い上がれ』と言えば、ずっと 上がって行くし、『舞い降りろ、舞い降り ろ』って言えば、下に降りてくるんだ」 と言いました。 それで、 「家来たちに、やらせてみてくれ」 と言いました。 「本当にそうなるかどうか、家来にや らせてみてくれ」 と言うと、家来は 「舞い上がれ、舞い上がれ」 とやって、ずっと上に上がりました。 そして、今度は大将が 「降りてこい」 と言ったら、 「舞い降りろ、舞い降りろ」 と言って、そこに降りてきました。 「これはいい宝物だ・・・」 と、息子は思ったわけです。 それで、 「これ一つでは、話はできないナア」 と言うと、大将はまた家来に 「宝物、別の物を持って来い」 と言って持ってこさせました。 そしたら、小さいこれくらいの箱を持っ てきました。その箱を開けて、針を取り 出して、 「これはな、一番の宝物だ。こちらの 先でチクッと刺せば生きている人が死 ぬが、こちらでチクッと刺せば、生き返 ってくるんだ」 と言いました。それで、 「ほほう、これはいい。それなら、誰か 家来に試してみてくれ」 と言ったら、大将は家来を一人寝かせ て、死ぬ方でチクッとやりました。する と、コロッと死んでしまいました。そして 今度は 「そしたら、生き返らせてみろ」 と言うと、反対のほうでチクッとやったら また生き返ったのでした。 「これは、いいなあ」 と思って、今度は 「どれどれ、おいらもちょっと試してみたいから、ちょっと針を貸してみてくれ」 扇子と針を、自分の前にこういうふうに持ってきておいて、 「これをみんなくれるなら、話してきかせてもいいが、おいらにくれるか」 とそう言いました。 「ああ、やろう、やろう。どんないい夢か、それなら話してみろ」 「だけど、おいらが使ってみても、本当にいくかいかないか。まずやってみなくちゃ」 と言って、針の先を持って、大将の指にチクッと刺したら、大将はコロッと死んでしまいました。 すると、家来たちは驚いてしまって、大将が死んだと騒ぎ始めました。 あ、今のうちだと思って、その針をしまうと、あの扇子で 「舞い上がれ、舞い上がれ」 と息子は逃げていってしまいました。 「舞い上がれ、舞い上がれ、舞い上 がれ・・」と、ずっとずっと上がったら、鬼 たちが、大将が死んでしまったので、あわててあちこち歩いているのが蟻のように見えたそうです。 「どっちへ行けば自分の家があるん だろう」とあちこち見ながら行くと夕方になって暗くなってきました。 日が暮れて暗くなるので 「夜中に飛んでないで、どこかに休まなくちゃ」 と思ったら、村を二つ三つ越えていくうち、村はずれの一軒の家に提灯の灯りが出たり入ったりするところが見えました。 「あ、なんだろう、あの家に提灯が行き来するけど、何があったんだろうか」 と思って、「舞い降りろ」と言って降りて、様子を見ました。すると、おいおい と泣く声がします。 「なんだろう、この家の誰かが亡くなったばかりなんだ」 と思って、そっと降りて、家に入る人に 聞きました。 「この家で、なにかあったのですか」 と聞きました。 「長者殿の一人娘さんが急に具合が悪くなって、医者に診て貰ったけれど治せなくって、今亡くなって大騒ぎしているところです」 とそう言って聞かせました。 すると、 「どうして死んだのか、私に少し見せてください」 と言って、家に入っていって 「では、この娘さんを生き返らせてみせようか」 と言いました。 「それならなんと良いことか、何とか生き返らせてください」 と、両親が頼みました。 ただ生き返る方の針の先で刺すよりも、格好がつくだろうと、呪文を唱えるふりをして 「あちゃあちゃあちゃ」 と言って、誰にもわからないうちに、生きる針で刺しました。 すると娘さんが手や足を少し動かしました。 それで、また生きる方の先で、チクッと刺しました。 「あ〜あ、よく眠ったわ」 と目をさまして、生き返ったそうです。 そうしたら、その家のお父さんもお母 さんも喜んで、一人娘の葬式を出さなければならなかったのが生き返ったのだから、七日七夜の宴会でした。 「この人は一人娘の命の恩人なんだから、うちのお婿さんになってください」 と言われました。 「お婿さんはだめです。奥さんもいるので、婿にはなれません。まず、帰らせて下さい」 と言ったら 「それなら、あなたに宝物をたくさんあげるから、お礼もたくさんやるので、貰って下さい」 と言ってくれたので、荷車に、宝物から米やら、酒やら、お金やらたくさん積んで、使用人たちに引かせて、息子はそ の荷物の上に乗って、家に帰っていき ました。 そうしたら、おじいさんとおばあさんは 「うちの馬鹿息子はどうなっただろう」 と、家の前で見ていました。 「なんだろう、うちに荷車が来たよ」 と、びっくりました。 「どうしたんだ、馬鹿息子も帰ってき た、なんだろう」 と、驚いていると、使用人たちは荷車か ら、米やら、味噌やら、酒やらを、おじ いさんの家に降ろしていきました。 「おいおい、どうした、どうしたんだ。 今まで貧乏していて、何も食べる物が 無いのに、あの馬鹿息子に酒をみんな 飲ませてしまって、何も無くて暮らして いかれないと思っていたのに、あの馬 鹿息子は、何をよその人から盗んでき たんだ」 などと驚いているので、今度は家に入 って話したわけです。 「どうやって、おまえ、こんなふうに米 から何から貰ってきたんだ」 「おいら、初夢の話を言えと言われて も話さないで、宝物と取り換えてきたん だ、これと」 と言って、扇子と針をこうしてみせまし た。そして、 「この米や酒は、針を使って娘さんを 生き返らせて、礼に貰ったんだ」 と話しました。 夢が実現したので、今度は話したわ けです。おじいさんとおばあさんに。 「どんな夢だったんだ、ひとえ二日の 初夢は」 と言われて話したのは、貧乏で、田ん ぼも無い家なのに、その夢は、『水田に 舟を浮かばせて、黄金の山に向かって 漕いでいく』という夢だったのです。 おじいさんが教えてくれたことがあっ たんです。いい夢を見た時は、人には 絶対に話してはいけない。話さなかった らよい事が起きる。悪い夢を見たとき はみんなに話せばいいという事を。 田んぼに舟を浮かべて、黄金の山に 漕いでいくところを夢に見たから 「これはたいしたもんだ」 と思って、いい夢だからと話さないでど こまでも通したのです。馬鹿の一つ覚えで、いい夢を見たことを誰にも話さな いで頑張ったわけです。 そして、おじいさんとおばあさんと嫁さ んと幸せに暮らしたそうです。 まず、 とっぴんぱらりのぴー |

藤原晴子さん
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