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〒019-0803
秋田県雄勝郡東成瀬村椿川字堤31-2
まるごと自然館
TEL:0182-47-2362

東成瀬の昔っ子

猿兄

 昔、あるどごろさ、じさどばっぱど五
人の娘がいだっけど。
 
 春の日のええ空のじぎにしぇ
「じさじさ 山さウドッコどがワラビコどが
 おえだべしぇ。採ってきてけろ、じさ」
って ばっぱ、言ったけど。
 ほえで、「んだが」なて、大にぎりまま
もらって、山さ行ったごで。そしたば、お
えでらの おえでらの ウドコだのワラビ
ッコだの えっぺあるけど。
 ひとしぇ とって戻ってくる途中に、山
賊雨、降ってきたけど。ちょうど 川を越
えてくるどごで、川さ大っきい木が横に
こげががってで、半分枝がたらびいてい
るどごだけど。

 雨降ってきたら、みずがさ まわって
きてよ
「こりゃ、なんとしたらえがべ、泊まらべ
ばねべが」
って、じさ 青くなって川の側さ えだば
一匹の猿 ではってきてよ
「じさじさ、なしにこさ えだなだ」
って聞いだけど。
「こうして ひとしぇ採ってまったども、な
んとしてこの水の増えているたどご、こ
の荷物しょって、川越していったらえが
べって 苦してらどごだ」
ってゆったけど。
 したば、猿ぁ
「んだが、んだらオレ越してける」
ってゆけど。
「それ 一背しょって オレのオッパさ 
たぐじげ」
てけど。
 じさ、喜んで猿のオッパさ たぐじだば
「まなぐひくれ」ってゆっけど。
 ベーンと上がって、ワラワラど木サ登
って、ザーと降りでッてよ、川越してけだ
っけど。
 あまり ありがでしてしゃ、じさ
「おらえさ 娘五人持ったがら、誰がか
れが おめどさ嫁っこにけるがら。」
したば、猿ぁ喜んで
「ありがど、ありがど」って言うけど。
「んだえ、あど一週間たったらば、おら
えまで来え」
って、ゆったけど。

 じさ、猿から越してもらって喜んで、家
さ戻ってきたけど。
「こういうわけで、水たまってきたな、川
越してもらったなで、猿どさ ひとり娘嫁
ッコさ けるってゆったなで、えってけね
が」
って、姉娘さゆったば、
「おらなの、やんか。だれ猿さなのゆくん
だって。おらな、やんか」 
ってけど。
それで、こんだ困って二番目さゆったば
「おらなの、猿さな、やんか」
ってけど。
三番目さゆったば
「おらなの 猿さなやだ、じい行ったらえ
べ」
ってけど。
四番目にゆっても、そうゆわれだぞうな

 さあ、もう一週間たでばしぇ、猿しゃ嫁
もらいに来るべし、なんとしたらえがどっ
て、病気なるだけ苦したけじぉな。した
ば、一番のバッチこ、夜あがりしてきた
けど。
「どでこ、どでこ、おらしゃ、こうしてしぇ 
嫁こけるはずしてきたなしぇ、姉だち誰
も行くって言わね。なんともしょあねくて
、病めになるどごだ」
「んだなが、じい、んだら おれ行ってけ
る」
ってそう言ったけど。

 して、三日目は膝直しにくるなで、じさ
 酒っコつくって、楽しみに待ってらけど


 膝直しに行くなで、喜んで
「何 たげでったら えがべな、どでこ」
ってけど、猿な。
「んだな、おらえのじさもあばもみんな餅
好きだ人で、餅あればなんもいらねひゃ
え、餅でったり たねでえご」ってけど。
 餅、でだっと臼さついでよ、猿、手で餅
取るどったば、
「あや、手でとれば、手臭くてうまぐねっ
て言うから、臼さ入れだ そのまま背負
っていご」
って、どでこ 言ったけど。
 ほえで、猿ぁ
「んだが、んだらば、しょってぐ」って、な
んと新し嫁っこもらってもんだがら 
喜んで 猿しょって きたけずおな。

 中途まできたば、大ィ崖さ おがった
桜ッコがまんじ満開に咲いで、綺麗だっ
けずおな。
「あらー、あの桜コ きれいだごど。おら
えの親だぢ、桜の花っコ好きでよう、あ
れ一枝とってけろでぇ」
「んだが、」って臼おろして、枝コ取りに
あがるどごだけど。したばしゃ
「あやーそれ、おらえのひとだぢ土さ置
いた餅なば、土くせくて かねしぇんて、
それしょったまま のぼってけろ」
ってけど。
猿、娘の言うこど きいて
「んだが」ってんで、膝直しにいぐな お
もしぇくて臼しょったまま、桜の木さあが
ったわけだ。
「どれよどれよ、この枝っこが」
「それでなく、ほらその上の枝っこよ」
「これだが」
「んでなく、それよりまっと上の枝っこよ」
「んだば、これが」
「それより まっと 上のなよ」
そういって、どうどうど、じーっとウラこさ
、上げだけど。
一番のウラッコさ咲いた枝コほしいって
ゆったけど。

 でたっと 餅のはいった臼 背負った
まま ウラッコさえったわげだ。したらへ
ぇ、バリバリど枝折れで、ドダーンと淵さ
落ちてしまたわげだ。

 したば、こんだ どでこまだ まんずえ
がったどて喜んでよ、涙コ垂らしたふり
まげだば、せば、猿ぁツプツプど臼背負
ったまま流されて行くけど。してよ

  さるざると 流るる命は ほしぐねど
    あどの どてこは 泣くべもの

って、詠って流されでえったけど。
 したば、どでこ まだ、泣いだふりまげ
で、あやぁえがったどって、一人で家さ
帰ったけど。
「なんだってよ、おめ一人来たなが」
って、じさに言われて、こういうわけでし
ゃ、猿流されで死んでまったって言った
けど。これで、じさどさ、親孝行したどっ
て喜んだけど。

とっぴんぱらりのびーっ
   昔あるところに、お爺さんとお婆さん
と五人の娘がいました。

 ある春の天気のいい日に
「爺さん爺さん、山にウドやワラビが出
たころだろうから、採ってきてください」
と、婆さんが言いました。
 それで「ああ、いいよ」と大きなおにぎ
りをつくってもらって、山に行きました。
すると、生えていること生えていること、
ウドやワラビがたくさんありました。
 たくさん採って戻る途中に、いきなりど
しゃ降りの雨が降ってきました。川を越
える所で大きな木が倒れかかって、枝
が向こう岸になびいていました。

 雨が降り続いたら、水嵩が増してきた
ので
「これはどうしよう、泊まらなくちゃならな
いだろうか」
と、爺さんが困って、川の岸にいると
一匹の猿が出てきて
「爺さん爺さん、どうしてここにいるんだ」
と言いました。
「こうして、山菜をたくさん採ったけど、こ
の水嵩の増えた川を、この大きい荷物
を背負って、どうして越えようかと困って
いるところだよ」
と、言いました。
 すると、猿が
「そうなのか。それなら俺が渡してやる
よ」と言いました。
「その荷物を背負ったまま、俺のしっぽ
につかまって」
と言ったんです。
 爺さんが、喜んで猿の尻尾につかまっ
たら
「目をつむって」と言いました。
 すると、傾いた木をドンドンと登って、
ザーっと降りて、川を越えていました。
 爺さんは、ありがたくてありがたくて、
「家には五人の娘がいるから、誰か一
人、お前に嫁にやるから」
と言いました。
すると猿は喜んで
「そうかそうか、ありがとう」と言うので
「だから、一週間たったら私の家に来て
くれ」
と、爺さんは言いました。

 爺さんは猿に川を渡してもらって、喜
んで家に戻っていきました。そして
「こういうわけで、川の水嵩が増したとこ
ろを猿に渡してもらったので、猿の嫁を
やると約束したので、おまえ嫁いでくれ
ないか」
と、姉娘に言ったら
「私はイヤよ。誰が猿になんか嫁ぐもん
ですか。私は行きません」
と言われました。
それで、今度は困って、二番目の娘に
言ったら
「私だって、猿なんかイヤですよ」
三番目に言うと
「私も猿になんかイヤです。爺さんが行
けばいいさ」
と言われ、四番目に言っても、そう言わ
れたそうです。
 
 さあ困った。もう一週間したら、猿が嫁
を貰いにくるし、誰も行くと言わないし、
どうしようかと病気になるほど悩んでい
ました。すると、末っ子の『どてこ』が戻
ってきました。
「どでこ、どでこ。こんなわけで、猿に娘
を一人嫁にやると約束したんだが、姉
たちは誰も嫁つぐと言わない。どう
しようもなくて、病気になりそうだよ」
「なんだ、そうなら、私が嫁つぎましょう」
とそう、言ったそうです。

 そうして、嫁ついで三日目の里帰りに
は、帰ってくるので、爺さんはお酒を作
って、楽しみに待っていました。

 猿の家でも、里帰りにいくのを喜んで
「何を持って行ったら喜んでくれるんだ
ろう、どでこ」
と、猿が言うと
「そうですねぇ、うちではみんな餅が好き
だから、たくさんついて、持って行きまし
ょう」と言いました。
 臼で餅をたくさんついて、入れ物に入
れようとすると
「あら、手で取れば、手の匂いがついて
おいしくないって言うから、臼のまま背
負ってくださいな」
と、どでこが言いました。
そこで、猿は
「そうか、じゃ、背負っていこう」
と、なにしろ新しいお嫁さんを貰う事が
できて嬉しくて、猿は背負っていきまし
た。

 途中まで来ると、大きい崖に生えてい
る桜が満開で、とてもきれいでした。
「あらぁ、桜がきれいだこと。うちの親た
ちは桜の花が好きなんです。あれを一
枝取ってくれませんか」
「そうか」と、臼を地面におろして、枝を
取りに行こうとすると
「あらあら、うちの人たちは、土の上に
置いた餅は、土の匂いがするので食べ
ないから、それを背負ったまま、
登ってくださいな」と言います。
猿は、娘の言うことをきいて
「そうか」と、里帰りに行くのが楽しいもんだから、臼を背負ったまま、桜の木に
登っていったわけです。
「どれがいいんだい、この枝かい」
「それじゃなくって、ほらその上の枝よ」
「これかい」
「それじゃなくって、もっとその上にある
枝よ」
「じゃ、これかい」
「それより、上の枝よ」
そう言って、娘はどんどん先の枝先に
登らせたのです。
一番枝先の桜が欲しいといいました。

 たくさん餅の入った臼を背負ったまま
、枝先にいったわけです。そうしたら、
当然、バリッバリッと枝が折れて、猿は
、ドターンと川に落ちてしまいました。

 すると、どでこは、こりゃよかったと喜
んで、でも、涙を流して悲しむふりをした
のです。猿はツプツプと、臼を背負った
まま流されながら

  さるざると 流されていく 自分の身
 は惜しくないが
  あとに残されて どでこは泣くだろう

と言いながら、流されていきました。
 そうして、どでこは、また泣きまねをし
ながら、よかった助かったと、一人で家
に帰りました。
「どうしたんだ、お前一人で帰ってきた
のか」
と、爺さんに言われて、これこれこういう
わけで猿は流されて死んでしまったと言
って、爺さんに親孝行できた事を喜びま
したとさ。

とっぴんぱらりのびーっ

福地タケ子さん

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