山姥の皮をかぶった嫁っコ
昔々、あるどころにな、娘だぢ三人どおどど幸せに暮らしてらけど。 ある日な、 「おれや、上方参りさ行って来るへで、おめだ、留守頼むな」 って、そう言って出がげで行ったけど。 したば、行ぐ途中、山道さ差しかがった時、 「助けてけろー、助けてけろー」 って、叫ぶもの、えだけど。なえだおだべって、見だば、ダイーッ蛇、ビッキどご喰うどごで、こうしてえだけど。 「助けでけろー、助けでけろー」 おどまだ、今上方参りさ行ぐ先へゃ、ほんだ喰われるな見だたてでぎね、縁起悪りしど思って 「ヘビヘビ、ビッキしゃ、こんたに助けでけろって云ってるおの、助けでやってけろ。しぇば、おれどごさ三人娘コいるへで、そのうちの一人、おめどさけるへで、助けでけろ」 「んだが。んだら、その、絶対約束守ってけろよ」 ヘビ、ビッキどご逃がしてやって、ビッキ喜んで山の方さえったけど。 おど、上方参りさ行って、しばらぐして戻っだば、そごのヘビぁビッキ喰おうどしたどごさ来たば、立派だエー若げおの立ってらけど。 「あのじぎのヘビだな」 おど、わがったけど。 家さえって、何てゆったらえがべ、娘どさ、何てゆったらえがべ・・・て、くしてくして、家さ戻ったけど。 したて、云わねわげには、いがね。明日には、ヘビ貰いに来るんだし。 一番先に姉どご呼ばったけど。 「アネアネ、ヘビがらビッキ助けだなで、オメどこ、けるかじょしたのも、行ってけるが」 「ダーレッ、おら、そぢぎたヘビさなの、嫁なの、なってぐだてお!」 って、バエーッとえってしまったけど。 さあ、困ったって思ったのも、なんじおしょわねなで、二番目の娘コどご、呼ばたけど。 「こうしてヘビどさ、娘けるごどにして来たのも、おめ、行ってけねが」 「だーれ、おらヘビのどさなの、行くだておッ!」 バァエリって行ってしまったけど。 さあ、あど一人の娘さ、何んてゆったらえべどて、くしてくして、んだの、呼ばったけど。 「おめ、行ってけろ、おめ、行ってけねが」 「おれ、行がねために、身体具合悪ぐしぇば、なんにおならねへで、おれ、行ぐ」 そう、云ったけど。 「あやーえがったな。なんとが頼むな」 二人胸なでおろしたけど。 次の日の朝ま、 「おめ、何でおへ、欲しおのけでやるへで、何が欲しおもあったら、云っての」 「おら、何おえらね。フクベ 千 針 千本 それ用意してければ、それでええ」て、そうゆったけど。 「それぐりゃなば、じょさね」 って、おど、隣近所にま回って、フクベ千ど針千本ど、めけで来たけど。 して、渡したば、やっぱろ次の日よ、立派だいい男、嫁コ貰いに来たけど。それで、けるごどにして、「大事にしてけれな、おら家の娘コの一番バチコだへんて」 って、そうゆったば 「だいじょぶだ、大丈夫だ」 って、そ、ゆって、ちでたけど。 山ァ、一山越え二山越え三山越えして、ヘビなのあどさ娘コちでたば、沼のほどりさ来たけど。 「こごがおれの住み処だへて、こごさおれどひとじに入ってご」 ってゆったば、 「まじ、最初がら沼さなば、ひゃるななば・・あれだえてびゃっこ、待ってけろ」 って、背負ってきたふくべ、沼コさコエンて投げだけど。して 「そのふくべ沈めらがしてければ、おれ、行ぐ」 そう云ったけど。 「ああ、それぐれなば、じょさね」 どて、でゃで、やったたて、沈めればポコラ沈めればポコラって、浮ぎ上がってくるべた。 何んぼっやても、何んぼやってもあれだべし、こだ、沼コさ潜って、えっぺ子ッコだどご、ちできたけど。 こんだ、それさ、針千本ベェーッと娘コ投げだけど。したば、そのヘビださ、ジガジガど針刺さるべし、ふぐべまだ、ぎりっと沈まねべし、テンシュまげで、皆沈んで まったけど。 「えなぁ、あど家さ戻るえなぁ」 ど思って、あだりほどり見だてみば、晩かたなって、薄暗ぐなってらけど。 「あ、困ったな、暗ぐなってしまったなぁ、一人山道行ぐなも、あれだし、なんとしたらえがべな」 ど思ったば、ジーーッと向ごのほさ、灯りコポポッとあるけど。 「あっ、そごの家さでお行って、今日は泊まるしかね」ど思って、そごの家さ行って、ドンドンど戸叩いて 「なんとが、おらどご一晩泊めでけねべが」 そたば婆さま出はって来たけど。 「ああ、おらエでえば、泊まってけろ。疲れだべ、疲れだべ」 てそう云って、いっぺごっつぉこへで、かへだけど。 「実はな、おらな、おめだエのおどに助けで貰ったビッキだ。明日戻ればえだへて、今日はまじゆっくり休んでけろ」ってゆけど。 「んだのも、行く途中に、人食い鬼いるへで、おめ、そのまま行げば、たぢまぢかれられでしまう」 って、奥さ行って、山んばの、年寄り婆んばの皮、持ってきたけぞぉ。 「ほれ、これかぶってげ。へば、あぶねごど、ねぇへんてな。そご、じーっと下ってげば、湯沢のまぢあるがら、そごに、大っきい酒屋あるへで、そごで使ってもらえな」 それを貰って婆んばになって、下ってたけど。 したば、やっぱり人食い鬼だ、ガヤガヤどえだけど。 「あっ、なえが来た。くうこだ」 「なんだけ、こんた腐れ姥だごたば、うまぐね。こんだおの、かれねんだ」 そういうごど、云ったけど。 それで助かって、一山越え二山越えって、下ってったば、湯沢のまぢさ、ちだけど。で、まぢさ、酒屋あるけど。その酒屋さ行って 「なんとが、おれどご使ってけねべが」 って、親方さえって頼んだけど。 「んー、わげば使うってごどあるたて、こう年寄りなば、なあ」 って云うけど。 「何でもやるへで、なんとが使ってけろ」 「火焚きぐれなば、でぎるべ」 どて、火焚き婆どて、使うごどにしたっけど。 何でも気が回るべし、皆にかて、火焚きばんば、火焚きばんばって云われで、なんでもやるけど。 ある日な、そごの家の若旦那、酒屋の常会さ行ってな、夜あがり遅ぐなったけど。皆寝しずまった頃によ、火焚きばんばなの部屋さばり、ポチッと灯りコちで だけど。何だべなって不思議がって、火焚きばんばの部屋覗こんで見だば、きれーいだ娘コよ、ろうそくコの灯りコで、いっしょけんめ裁縫してらけど。 「あやー、なえだおだ。夢見でらごってねべが、おがしなぁ」 って思ったのも、まずその日は寝床さ行ったのも、寝られねけど。あまりにも、きれいだ娘ッコで。 次の日、まだ晩なってがら行って見だば、やっぱりその部屋、あがりけど。まだ、こうやって見だば、きれいだ娘ッコ、いっしょけんめ裁縫だけど。 「おらー、何とした訳だべ」 こんだ、とうとう病気になってしまったけど。 さあ、そご家の親方、困ってしまって、 「おらえの若ぎゃなに病気ならえで、ギリッと起ぎれも、なんもへね、どしたらえがべ」 って、あちこちの医者たのんできて、診でもらったて、医者だぢ、病気の原因わがらねぇごたば、薬のやりようねって困ったけど。 こんだ、酒屋の親方、えのめさ、ダイッ立て札たでだけど。 「おらえの息子しゃ、こういう病気になってしまったのも、息子の病気を治してけだ人さ、千両箱けるがら」 って、立て札立でだけど。 したば、そごさ坊さん来たけど。占いだな、八卦おいだ。それ見で、えさ入ってたけど。 「立て札見で来たのも」 「ああ、えぐ来でけだな」 「おめだえで稼いでる若げ娘コだぢえっぺえだべ。それだどごさ、水コ一人ずつ汲ませで、その息子どさ、飲ませでの。その人の汲んだな飲めば治るその病気」 したば、十何人もいる娘コだぢさ、一人ずつ水コ汲ませでやったけど。したたて、誰行ったたて、これぁ飲むてもゆわね、ペターとなってしまってらけお。一番最後な行ったたて、それも駄目だけど。 「まさが、あの火焚きばんばをやったおでねぇべしな」 と思ったのも、なんじおしかだねどて、 「ばんば、ばんば、おらえの息子さ、水コ汲んでて飲まへでけろ」 って云ったけど。 したば、そのばんば、皮コ脱いで、きれいだ娘コなって、兄どさ水コやったば、喜んで飲んだけど。したば、しかっと治ったけど。 それでな、そごえの嫁コに貰われで、稼ぐって稼ぐって、気は回るべし、好きで貰った嫁コどご、若旦那まだいっしょけんめ手伝わせて、そごのえダイ繁盛して、して、代々繁盛したっけど。 トッピンパラリノプー |
昔々、あるところに娘達三人と父親が幸せに暮らしていました。 ある日、父親は 「上方参りに行ってくるから、お前達、留守をしっかり頼むよ」 そう言って出かけていきました。 すると、途中の山道に差しかかった時、 「助けてくれー、助けてくれー」 と、叫ぶ者がいました。誰だろうと見ると、大蛇がカエルを食べようと、こうして口を開けていました。 「助けてくれー、助けてくれー」 父親は、今上方参り行こうというときに、そんな食べられるところを見るなんて、縁起が悪いことだと思って 「蛇よ蛇よ、カエルがこんなに助けてほしいと言っているんだから、助けてやってくれないか。うちに三人の娘がいるから、そのうちの一人をお前に嫁にやるから、助けてやってくれ」 「そうか、それなら助けてやろう。絶対約束を守れよ」 蛇はカエルを逃がしてやったので、カエルは喜んで山に戻っていきました。 父親が上方参りを終えて、しばらくして戻って、蛇がカエルを食べようとした場所に来たら、立派ないい若者が立っているのが見えました。 「あの時の蛇だな」 父親はわかりました。 さあ、ヘビとあんな約束をしたけれど、娘達にどう話したらいいだろうと頭を悩ませ悩ませ、家に帰りました。 けれど、言わないわけにはいきません。明日にはヘビが娘を貰いに来るのだから。 一番目に上の姉娘を呼びました。 「娘よ、ヘビからカエルを助けるために、お前を嫁がせる約束をしてしまったんだが、行ってくれないか」 「誰が、そんなヘビになんか、嫁になんか行くもんですか」 と言って、さっさと行ってしまいました。 さあ、困ったと思いましたが、どうしようもありません。今度は、中の娘を呼びました。 「こういうことで、ヘビに娘を嫁がせると約束したんだが、お前行ってくれないか」 「私、ヘビの嫁になんか、行くもんですか」 と、行ってしまいました。 さあ、あと下の娘しかいない。どう言おうかと悩んで悩んで、けれど、下の娘を呼びました。 「お前、行ってくれ。お前、行ってくれないか」 「私まで嫁がないと、お父さんが身体具合を悪くしたら、何にもならないから、私が行きます」 そう、言ってくれました。 「ああ、よかった。なんとかお願いするよ」 二人で、胸をなで下ろしました。 次の朝、 「お前、何でも欲しい物をあげるから、何かあるなら、言いなさい」 「私は何も欲しい物はないけど、瓢箪を千個と針を千本用意してもらえれば、それでいいです」 「それぐらいなら、簡単だよ」 と、父親は隣近所を回って、瓢箪千個と針を千本見つけてきました。 そして、それを渡したら、案の定次の日立派ないい若者が嫁を貰いに来ました。それで、嫁がせることにして 「大事にしてくれよ、家の末っ子だから」 と、お願いすると 「大丈夫だ、大丈夫だ」 と言って連れて行きました。 山をどんどん越えて、ヘビの後ろについていったら、沼のほとりに着きました。 「ここが俺の住み処だから、ここに俺と一緒に入って行こう」 と、ヘビが言うと 「まあまあ、最初っから沼に入るのは・・あれだから、少し待って下さい」 と言って、背負ってきた瓢箪を沼にコロンと落としました。そして 「その瓢箪を沼に沈めてくれたら、私も行きます」 と言いました。 「ああ、そんなことはなら簡単だ」 と言いましたが、やってもやっても、沈めてもポコッ、沈めてもポコッと浮き上がってくるのです。 いくらやっても埒があかないので、今度は沼に潜って行って、大勢の子ヘビを連れてきました。 今度はそれに、娘が千本の針を投げつけました。すると、子ヘビたちに針が刺さります。瓢箪は、さっぱり沈まないし、根負けしたヘビたちは、みんな沈んでしまいました。 「ああ、よかった。これで、家に帰ることができる」 と思って、あちこち見回しましたが、夕方になって、薄暗くなっていました。 「ああ、困った。暗くなってしまったから、一人で山道を歩くのは大変だ。どうしよう」 すると、ズーッとはるか向こうの方に、小さな灯りが見えました。 「あそこの家にでも行って、泊めて貰うしかない」 そこの家に行って、ドンドンと戸を叩いて 「どうか、一晩泊めて下さい」 と声をかけると、お婆さんが出てきました。 「こんな家でよかったら泊まって下さい、たいそう疲れたでょう」 そう言って、たくさんの御馳走を食べさせました。 「実は私、あなたのお父さんに助けていただいたカエルです。明日戻ればいいでょうから、今日はゆっくり休んで下さい」と言いました。 「けれど、帰る途中に人食い鬼がいるので、そのままでは、たちまち食べられてしまうでしょう」 と奥に行って、お婆さん、年取ったお婆さんの皮を持ってきました。 「ほら、これをつけて行きなさい。そうすれば、あぶないことは無いから。そして、ずーっと下って行けば、湯沢の町があって、そこに大きな酒屋さんがあるから、そこで使ってもらいなさい」 というので、お婆さんに化けて下って行きました。 すると言った通り、人食い鬼がたくさんいました。 「おい、誰か来たぞ、食うことにしよう」 「なあんだ。こんな年寄りの婆あなど、うまくないだろう。こんなもの、食えやしない」 そんなことを、言いました。 それで、助かって山をいくつも越えて下っていくと、湯沢の町に着きました。そうして、町にあった酒屋さんに行って 「どうか、私を働かせてください」 と、主人のところへ行ってお願いしました。 「うーん、若ければ使うこともできるが、こう年寄りではな。」 と言うのです。 「どんなことでもしますから、なんとか使って下さい」 「そうだな、火を焚くぐらいのことはできるだろうから」 と、火焚き婆さんとして、雇うことにしました。 何でも気が付くし、みんなに火焚きばあさん、火焚き婆さんと呼ばれて、なんでも仕事をしていました。 ある日、酒屋の若旦那が常会に行って、夜の帰りが遅くなりました。すると、皆寝静まった頃に、火焚き婆さんの部屋にだけ、小さな灯りが点いていました。なんだろうと不思議に思って、覗き込んでみると、きれいな娘が一生懸命裁縫をしていました。 「あれ、なんだ。夢を見ているんじゃないのか、おかしいなあ」 と思って、自分の寝床に行きましたが、なかなか眠れませんでした、あまりにも、美しい娘だったので。 次の日、また夜になってから行ってみたら、やっぱり火焚き婆さんの部屋が明るいのです。また、覗き込むときれいな娘が、一生懸命に裁縫をしているのです。 「おれは、どうしてしまったんだ」 とうとう、若旦那は病気になってしまいました。 さあ、酒屋の主人は困ってしまって 「うちの若い者が病気にかかってしまって、起きることもなんにもできなくなった。どうしたらいいですか」 と、あつこちの医者を頼んで診てもらったけれど、医者たちも病気の原因がわからなくて、薬も出せないと困っていました。 それで、酒屋の主人は、家の前に大きな立て札をたてました。 「うちの息子がこういう病気になってしまったので、この病気を治してくれた人に千両箱を与えます」 という立て札です。 すると、そこに坊さんがきました。占いする人です。それを見て、家に入っていきました。 「立て札を見たんですが」 「ああ、よく来てくれました」 「この家に勤めている若い娘たちがたくさんいるでしょう。その娘たち一人一人に水を汲ませて、息子さんに飲ませてください。意中の娘が汲んだ水を飲めば、その病気は治ります」 それで、十数人いる娘たちに、一人ずつ水を汲ませて やりました。けれど、誰が行っても飲もうと言いません。力を落としてしまって。一番最後の娘が行っても駄目でした。 「まさか、女だからといってあの火焚きばあさんを行かせるわけでもないだろうし」 と思いましたが、もうどうしようもなく 「婆さん、婆さん、うちの息子に水を汲んで飲ませてくれ」 と言いました。 すると、その婆さんは、山姥の皮を脱いで、きれいな娘になって、息子に水を飲ませたら喜んで飲みました。すると病気はすっかり治りました。 それで、酒屋の嫁になりました。働くもので働くもので、よく気も回るし、若旦那も好きで一緒になった嫁に仕事を手伝わせて、その家は大繁盛しました。 そして、代々繁盛したそうです。 トッピンパラリノプー |
本間 智佐子さん
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