山の神様
昔々あるところによ、爺さんと婆さん といたけど。 爺さんは 「山さ柴とりに行ぐから、にぎりまま こしゃでけろ」 ってゆって、婆さんから にぎりまま こさえてもらって、にぎりまま しょって、 山さえったけどよ。 ダッキンダッキン、ダッキンダッキンと 昼間まで頑張って 「あ、にぎりまま、昼間になったがら、 腹へったがら、まま 喰おがな」 と思って、じさま、にぎりまま 広げだば 、にぎりまま、コロコロ コロコロ転げてしまったけど。 「こりゃ、にぎりまま待でぇ、びゃっこ待 でぇ」 って じさま、あど追っていったからっ て、にぎりまま止まらねぇで、ドォーッと 下さ落ちでいってしまうけど。 それ追っていったば、山の神様いると ころでとまったけどよ。 それで、 「昼間なんだし、おれだって、山の神 様だって腹へったんだ」 って思って、 泥まぶりになったにぎりまんまの、泥 ッコだどご、こう皮むいて、泥ッコだどご わぁ食って、中の泥ッコつかねぇどご、 「山の神様、食え」 って、山の神様さゆたば、 「いい、いい、じさま腹へってんだがら じさま食え」 てそうゆったけど。 んだて、爺さんなへ 「おれ腹へったべたって、 山の神様だって、腹へったんだ。山の 神様食え」 って、その泥ッコのつかねえ中のいい とこへ、山の神様さ食わせたけど。 したば、山の神様 「じさま、じさま、今夜おらえさ泊まって いけ」 って、ゆったけどよ。それで、 「あいや、婆さまな、帰ってこねぇがら 待ちるべった。待ぢでるべった」 ってゆったら、 「ええがら、あしたの朝ま、早くえさや るから、まず、今夜おらえさ泊まれ」 って、ゆったど。 晩になったけど、 「これから、鬼ッコだが博打やりにくる がら、じさま、この上さいって隠れていて な、まだ夜が明けねぇうち、コケッコウっ ていえば鬼ッコ逃げて行くへんとか、 そこに隠れででけろ」 ってそうゆったど。 「そこの屋根裏さ、そこの上さ なんじ して上がっていぐなだって、梯子なの ねぇへよ」 ってゆったば、 「あのな、おらの肩さ上がれ」 って、山の神様、ほうゆったけど。 「なんじして、山の神様の肩さなど上 がられねぇ。そういうもってぇねぇごとさ れねぇ、おら、そごさ上がっていがねた てえ」 って、そうゆうたら、 「いいがらまず、おらの肩さ上がれ」 ってゆって、山の神様きかねえけど。 それで、 「あや、もってぇねぇ、もってぇねぇ、も ってぇねぇ」 って、山の神様の肩さ上がって、その 屋根の上さ上がっていって隠れてらけ どよ。 そしたば、晩方、いいやんべえ暗くな ってきたば、鬼ッコたち集まってきたけ ど。あっちがら一人、こっちがら一人、 四、五人集まってきて博打始めたけど。 「あ、んが勝ったでが」 「おれ勝ったでが」 ってわんわって騒いでで、今度はそん ま、夜明ける なと思った時、山の神様 に教えられた通り、 「コケコノヨー」 って叫んだけど。 「あ、一番鶏が鳴いた。そんま夜が明 けるな」 って、鬼ッコ、んだたって、まだやって らけど。 こんだ、まだべっこ待ってからと思って、 「コケコノヨー」 ってゆったば、 「あ、二番鶏叫んだ。あ、えご、えご、 そんま夜明ける、逃げてえご」 って、鬼ッコだ、ほのじぇんこ、みんな 置いで逃げで まったけどな。 そしたんば、山の神様、 「じさま、じさま、降りてこい」 ってゆったけどな。 じさま、まだ 山の神様の肩さ 上がっ て 降りてきたごどや。鬼ッコだ、博打 やったじぇんこ、のらっとこう集めてな、 「ほら、じさま。これ背負ってな、 ばさまさ 帰っていけ、早くな」 ってゆって、山の神様、じさまどごさ、 じぇんこ どっさり けて、かえしてよこしたけどよ。 そしたんば、隣の意地悪じさまとばさ まときて 「あらなんだべ。となりのえでは、こん たに親方衆なって、今まで、おらど ひ どじだっけ、まんず、どっからこんたに もってきたべ」 ってゆったば、 いいじさまな、みんな聞かせたべった 。 「山さ柴とりに行ったば、こうやって、 にぎりまま 転ばして 山の神様へ、 鬼ッコだ博打やったじぇんこ、 けで よこしたけど」 って聞かせたば、 「あら、んだば、おらえのじさまどこも 柴切りさやる」 んだ、にぎりままにぎってな。 隣のじさまな、しぇやみで行きたくねぇ な、その隣のばさまな、やったけど。 じさまな、 「やんだ、やんだ」 といって、こんだ、柴はなんぼもきらね で、昼間にな るのを待ぢでえだごでぁー にぎりまま転ばしてやれば、山の神様 えさころんでゆぐたって、今度は、にぎり まま、なったりころんでいかねぇずおん 。それで、 「ころんでげ、ころんでげ」 ってこうやって、 「ほれ、山の神様いえさころんでいげ 、ころんでげぇ」 わぁ、おしけでころがしていたけどや。 「山の神様、山の神様、腹へったんべ 。おれ、にぎりまんまあるんだへんとが 、にぎりまま くてけろな」 ってゆって、外のほうの泥のついたとこ を、 「山の神様、ほれ、食え」 ってゆって、 わ、中の泥のつかねぇとこ、ムシャムシ ャ、くたけど。山の神様さ泥のついた うまくねぇとこけで。 「このえさ、鬼ッコがくるべ、晩げな、 おれ、隣のじさまから聞いてきたから よ。あの、鬼ッコ博打ぶちにくるなら、お れ べっこみでぇ」 って、ゆったば、山の神様、 「そういうのこねぇ、じさま帰れ、ばさま しんぺぁしてるぞ」 「だって、隣のじさまそうゆってらから よ、おれよ、そさ、かくれでるって、山の 神様 肩かせ」 なんてゆってよ、 山の神様、こうやって上さ上がって隠 れろ、って言わないうちに、 山の神様の肩さ上がって、頭さ上がっ て、バンと上さ隠れてしまったじおん。 そしたば、晩になったば、鬼ッコ集まっ て来たけど。 集まってきて、 「フンフンフン、なんだ、山の神様、 人の匂いがするな」 「なんでが、ほうゆうなの、人なのいね ぇ」 「フンフンフンフン、なんだが変な匂い がする。今までと違う」 なんてゆって、 今度は、 山の神様のえ、こうやって のぞこんで見たら、見っけだけど、その じさまどご。 そこから引きずり落とされて、 ガッチガッチとはたかれて、 「あい、やめろやめろ、 そういうごとしたってでげねぇ」 なんて山の神様ゆったって、 きがねぇずおん、鬼ッコだ。 「ぶっだだいでやる、 おらやるどごみで、こんたごどして」 なんてよ。ガッチガッチと はででぇ、 今度は じさま、褒美も何ももらわねぇ でよ、まんだ夜明けねえうぢ、わんわ泣 いで、えさ帰っていたけどよ。 そいで、欲たけってへの、山の神様へ 、うまぐねぇどこ食わせで、わ、うめぇど ご食うなんて、いうごどでぎねぇっていう ごど。 いい爺さんみてぇにへぇ、 そういう人間にならねばできねぇなっ てゆう教えなんだなって思ってよ。 まず、とっぴんぱらりのぴー |
昔々あるところに、おじいさんとおば あさんがいました。 おじいさんは 「山に柴を取りに行くから、おにぎりを 作っておくれ」 と言って、おばあさんにおにぎりを作っ てもらって、それを背負って、山に行き ました。 ダッキンダッキン、ダッキンダッキンと お昼まで頑張って 「あ、おにぎり、お昼になったし、 お腹もすいたし、ご飯にしようか」 と思って、おじいさんがおにぎりを広げ たらコロコロ コロコロと転がってしまい ました。 「こりゃ、おにぎり待って、少し待ってく れ」 と、おじいさんが後を追ったからといっ て、おにぎりは止まらないで、ドォーッと 下に落ちていってしまいます。 それを追っていったら、山の神様のと ころで止まりました。 それで、 「お昼だし、私だって、山の神様だってお腹がすいているんだ」 と思って、 泥んこになったおにぎりの、泥がつい たところを皮をむくように取って、自分 が食べて、中の泥のつかないところを、 「山の神様、食べてください」 と山の神様に言ったら 「いい、いい、おじいさんはお腹がすい ているんだから食べなさい」 と言いました。 けれど、おじいさんは 「私もお腹はすいてるけど、 山の神様もすいてるでしょう。食べて 下さい」 と、泥のつかない中のいいところを、 山の神様に食べさせました。 そうしたら、山の神様は 「おじいさん、おじいさん、今夜うちに 泊まっていかないか」 と言いました。それで、 「いいえ、おばあさんが、帰ってこない からと待って るだろうから」 と言ったら 「いいから、明日の朝早く家に帰すか ら、まず今夜は、うちに泊まりなさい」 と言いました。 夜になったら、 「これから鬼たちが博打打ちにくるか ら、おじいさん、この上に隠れていて、 まだ夜が明けないうちに、コケッコウと 鳴けば鬼たちが逃げていくから、そこに 隠れていなさい」 と言いました。 「そこの屋根裏に、その上にどうやっ て上がっていくんですか。梯子なんかあ りませんよ」 と言ったら 「あの、私の肩に上がりなさい」 と山の神様がそう言いました。 「どうして、山の神様の肩になんて上 がられない。そういうもったいないことは しちゃいけない。私はそこに上がって行 かなくてもいいんです」 とそう言ったら 「いいから、私の肩に上りなさい」 と言って、山の神様はききませんでし た。 それで 「ああ、もったいない、もったいない、 もったいない」 と(いいながら)、山の神様の肩に上 がって、屋根の上に上がっていって隠 れていました。 そしたら、夜(になって)いい具合に暗 くなったら、鬼達が集まってきました。 あっちから一人、こっちから一人、 四、五人集まってきて博打を始めまし た。 「え、おまえが勝ったのか」 「おれが勝ったか」 とわんわと騒いでいて、もうじき夜が 明けるなと思った時、山の神様の言っ た通り、 「コケコノヨー」 と叫びました。 「あ、一番鶏が鳴いた。じき夜が明け るぞ」 と(いいながら)それでも、鬼達はまだ 博打をやっています。 今度はもう少し待ってからと思って、 「コケコノヨー」 といったら、 「あ、二番鶏叫んだ。さ、行こう、行こう すぐ夜が明ける、逃げていこう」 と、鬼達は、博打のお金を、みんな置 いて逃げてしまいました。 すると、山の神様は 「おじいさん、おじいさん、降りてきなさ い」 と言いました。 おじいさんはまた山の神様の肩に上 がって降りてきたんです。鬼達が博打を やったお金を、たくさんこう集めて、 「おじいさん、これを背負っておばあさ んの元に帰りなさい。早くいくんだよ」 と言って、山の神様はおじいさんに お金をどっさりくれて、帰してよこしまし た。 そうしたら、隣の意地悪じいさんとば あさんがきて 「どうしたんだ。隣の家はこんなに金 持ちになって、今まではうちと 同じだっ たのに、まあ、どこからこんなに持って 来たんだい」 と言ったら、 人のいいおじいさんは、みんな教えま した。 「山に柴とりに行って、こうやって、 おにぎりがころがって山の神様に行っ たら、鬼達が博打をやったお金をくれたんだよ」 と教えたら、 「それなら、うちのじいさんも柴切りに 行かせよう」 そう、おにぎりを握ってね。 隣のじいさんは、なまけもので行きたく ないけど、ばあさんは行かせました。 じいさんは 「いやだなぁ、いやだなぁ」 といって、今度は柴はいくらも切らない で、お昼になるのを待ってるのです。 おにぎりを転ばしてやれば、山の神様 のうちに転んでいくはずが、今度はおに ぎりがさっぱり転んでいかないのです。 それで、 「転んでいけ、転んでいけ」 と、こうやって 「ほら、山の神様の家に転んでいけ、 転んでいけぇ」 自分で押して転がしていったのです。 「山の神様、山の神様、お腹がすいて るんだろ。おれ、おにぎりがあるから食 べてくれ」 といって、外の泥がついたところを 「山の神様、さあ、食べてくれ」 といって、 自分は、中の泥のつかないところを、 ムシャムシャ食べました。 山の神様には、泥のついたまずいとこ ろをあげて。 「この家に鬼がくるそうだな、夜になれ ば。おれ、隣のじいさんから聞いてきた んだ。鬼が博打をしにくるなら、おれ、ち ょっと見たいなあ」 っと言ったら、山の神様は、 「そういうのは来ないから、じいさん帰 りなさい。ばあさんが心配してるぞ」 「だって、隣のじいさんがそう言ってた から。おれはそこに隠れるから、山の神 様 肩をかしてくれ」 などと言って、 山の神様がこうやって上に上がって隠 れろなんて言わないうちに、 山の神様の肩に上がって頭の上がっ て、バンと隠れてしまったのです。 そして、夜になって、鬼達が集まって きました。 集まってきて、 「フンフンフン、なんだ、山の神様、 人の匂いがするな」 「なんだってそういうのは、人などはい ない」 「フンフンフン、なんだか変な匂いがす る。今までと違う」 といって、 今度は、山の神様の家を、こう覗き込 んだら、見つけました、そのじいさんを。 そこから引きずり落とされて、 ガッチガッチと叩かれて、 「これ、やめなさいやめなさい、 そういうことをしてはいけないよ」 なんて山の神様が言っても、 ききません、鬼達は。 「ぶっ叩いてやる、おれ達が博打する のを見て、こんなことをしやがって」 などと言いながら、ガッチガッチと叩く ので、 今度はじいさんは、褒美も何にもらわ ないで、まだ夜もあけないうちに、ワン ワンと泣いて家に帰っていきましたと。 それで、欲張って、山の神様に、おい しくないところを食べさせて、自分がお いしいところを食べるなんてしてはいけ ないっていうこと。 いいおじいさんみたいな、 そういう人間にならなくち ゃいけない っていう教えなんだと思ってね。 まず、 とっぴんぱらりのぴー |
藤原晴子さん
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